第9話 説明

「はぁ…………本当に部活をするのか…………」


 俺はある部屋の前でため息をつきながら言う。 

 直前になって入るのが嫌になってきた。


 そもそもどういった部活をするのかすら知らないのだ。

 眠すぎてやりたくないっていうのもある。

 こうなっても当然だろう。


「まあ、くよくよしててもどうしようもないよな。ここで帰ったら璃々には色々言われるだろうし……先生からの評価も終わる気がする。……入るしか……ない」


 俺は決意を決める。

 自分の顔を叩いて、眠気を消した。

 そこでふと思う。


「ていうか…………ちゃんとここで合ってるはずだよな」


 加藤先生には『体育館の地下にある部屋で部活をすることになったから来てくれ。私は先に行っているからな!』と言われている。

 その言われた通りの道順でその場所に来てみたのだが。


「じゃあなんで…………茶道室って書かれてたあるんだ!?」


 目の前にある看板には茶道室と書かれてあった。

 間違いなく茶道部の部室だろう。


 よく見てみると、たしかに茶道っぽい。

 和風そうなドアだった。


「ほ、本当に合ってるのかよ……まあ、なかにいる先生に聞けばいいか」


 ドアノブに手をかけて引いてみるが、なかからカギがかかっているようであかない。


「カギ……? あの先生、意外と用心深いんだな。とりあえず、なかに知らせるか」

 

 もちろんインターホンのようなものはない。古典的な方法だけだ。


 こんこんと俺はドアをノックしてみる。

 返事はなかった。

 てっきり先生が来てくれると思っていたのに。


「聞こえてないだけか? もう一回やってみるか」


 俺はもう一度ノックをする。

 しかし、さっきと同じでなにも起こらない。

 俺は不思議に思いつつ、何度も何度もドアを叩いてみる。

 すると、ようやくガチャリとドアが開いた。


「加藤先生いくらなんでも遅いですよ。流石に待て…………って、え!?」


「……先生じゃないわよ」


 そこにいたのはあからさまに嫌な顔をした璃々だった。

 機嫌が悪く、気だるそうにしている。

 ドアをノックし過ぎたせいだ。


「なんで璃々が…………」


「こっちのセリフよ。先生かと思って開けたのに……あんただったのね。開けて損した」


 ガチャンとドアが閉められる。

 ついでにカギが閉まる音も聞こえて来る。

 どうやら俺は入室を断られたらしい。


「おい、ちょっと待て。なんで閉めるんだ!?」


「うっさいわね。自分でカギを開けなさいよ」


「そのカギを持っていないんだって!」


「もう……さっきからうるさいわね。仕方ないから開けてあげるわよ」


「これ、俺が悪いのか!?」


「その通り。あんたが全部悪いのよ」


「理不尽だ……」


「ふん。早く入りなさいよ」


 そういっているとドアが再び開いた。

 俺はとりあえず上履きを脱いでなかに入っていく。


「ていうか、なんでカギなんか閉めてたんだ。閉める実用なんかあるのか?」


「一応念のためよ。中学の頃は部室の前で何人かに待ち伏せされてたこともあったからね。まあ、次からはかけるつもりないから安心しなさい」


「璃々も大変なんだな……」


 なかは思っていた通りの畳みが数畳あり、意外にも広かった。

 ものはほとんどない。

 小さな机と座布団くらいだった。


「あれ…………先生はまだ来てないのか?」


「まだ来てない。あの人先にいるって言っておきながら全然来ないのよ」


「なにしてるんだ、あの人……」


「さあね。いきなり部活なんて作ったから上の先生とかに怒られてるんじゃないの。そう簡単に部活を作るなんて難しいし」


 璃々はそういいながら畳みの上で寝そべりだした。


「行儀が悪いぞ」


「いいじゃない。あんたしかいないんだし」


「…………その言い方、他の人には言うなよ。色々と勘違いされるかもしれない」


「え……勘違い…………って、そういうわけで言ったわけじゃないから! 本当に勘違いしないでよね!」


 顔を真っ赤にして言ってくる。

 キーンと耳に響く甲高い声だった。


「わかってるって。声が大きい。耳が痛い」


「もう……! ふん!」


 そういいながら璃々はだらりとしだす。

 携帯を触りだした。

 色々無防備で俺をすぐに目を離す。

 見ていることなんてバレてしまったら何を言われるのかわからない。


 とりあえず、俺も畳みの上で正座をして、先生を待つ。

 やることがないから暇だ。


「あんた…………スマホに連絡とかきてないってことは友達とか本当にいないのね」


「そんなの日ごろを見ればわかるだろ。友達なんて言える奴は一人くらいしかいない」


「悲しい奴。私だったら耐えられないわね」


「うっせぇ。大体、璃々だってその友達いない俺と同じ部活に入るんだし、一緒みたいなもんだろ」


「一緒じゃないわよ。あんたと一緒にしないで! ていうか、私はこの部活を認めたわけじゃないし」


「その割に俺の先に来てたんだな」


「ふん、いかなかったら先生になに言われるか分かったもんじゃないから仕方なく来てるだけよ。本音をいえば、あんたと2人の部活なんて嫌に決まってるでしょ」


 下卑た目を俺に向けて来る。

 まるでゴミをみるような目だ。


「おい、最後の一文要らないだろ。俺をどこまで馬鹿にしたいんだ」


「すべてにおいてよ」


「すがすがしい奴だな……そこまでくると何故か知らないけど納得できる」


 そんなことを言い合っていたころだった。

 三度ドアが開いて、外からなかに加藤先生が入ってくる。

 

「悪い。少し遅れた」


「あ、先生! 遅いですよ~」


「悪いな、天寺。待たせてしまったようだ」


「次から気をつけてくださいね!」


「俺にはなにもいう事ないのかよ……」


 璃々の方を見ると、さっきのだらしない姿勢は正座に変わっていた。

 本当にこいつは猫かぶりが上手い。

 俺は璃々に感心しつつ、先生に聞きたかったことを聞いてみる。


「それで、先生。聞きたかったんですけど、部室ってここで合ってるんですか?」


「ああ、間違いなくここだ。茶道室であっている」


「じゃあ、茶道部は……?」


「廃部した。というか人が少ないから無理やり交渉して譲ってもらった」


「えぇ……」


「まあ、その辺の話はまたあとで話すとしよう」


「そんな一大事件をその一言で片づけていいものなのかよ!?」


 先生はごほんと咳を吐く。

 そうしてから言った。


「今日集まってもらったのは他でもない。第1回部活動を開催するためだ」


「なにをするつもりなんですか? 青春っぽいことをするんですよね」


「ああ、その通りだ。今回することは…………」


「――ゴミ拾いだ! 明日の土日。学校に集まって学校を綺麗にする!」


「は?」


「え?」


「……ゴミ拾い…………だって」


「ああ、そうだ。それが最初の部活動だ。異論は認めん」


 そう加藤先生は言い切った。


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