第23話 病気

 散歩の時、アジはリードを外した途端、いつも、矢の様に駆け出して行った。しばらくして、呼び戻すと、全速力で帰って来た。

 自転車で行くと、こちらを煽るほどの速さで走り続ける。走るのが大好きで、体に風を浴びるのがとても気持ち良い、そんな感じだった。

 いつも全速力の体力自慢だったが、ある時から、途中で歩きだす様になった。

 そして走る時間が短くなってきて、歩くのが増えてきた。


 何か月かたって来ると、走るどころか、歩くだけになってきた。

 だんだん歩く速度も遅くなった。

 そして歩いた後、ゼイゼイと苦しそうに息をするようになってきた。ヨタヨタと少し歩き、すぐ止まる。やっと歩いている様だ。

 本当に体力が無くなってきた。


 庭でも辛そうで、4本足で立っているのも辛くなってきた様で、お尻を落として、座り込んでいる事が多くなった。座っていても、苦しそうに息をしている。


 10年以上生きているから老化のために弱っているのかな、と最初考えたが、老化にしては症状が悪すぎる。病気で調子悪いのかも知れない。老化と病気の合併症かもしれない。心配になり、病院に連れて行く事にした。


 動物病院に行った事が無く、なじみも無いので、通勤途中に見かけたところに決めた。


 病院に車でしか行けないが、車は大嫌いな犬なので、どうしようか悩んだ。

 試しに車の側まで連れて行き、ドアを開ける。

 よほど苦しかったのか、アジは意外にもすんなりと車に乗った。


 病院で、受付、診察。初めて載った診察台の上では緊張していたが、おとなしかった。


「どうしました?」

「最近、元気がすごく無くて、年齢のせいか、あるいは何か病気のせいで弱ってきているなのかなと思いまして。」


 医師は診察、血液検査の後、戻ってきた。


 医師「ワンちゃんは外で飼っていますか?」

「はい。外で飼っています。」

「原因はフィラリア症です。」

「え?」

「フィラリア症とは蚊が媒介する病気で、寄生虫のフィラリア原虫が血管の中で増える病気です。」

「いま、心臓の血管に増えた原虫が詰まっていて、血液が充分に行ってない状態です。本人はだいぶ苦しいと思います。よく耐えている。」


「何か薬、楽になる薬、いや、特効薬はないんですか?」

「ありません。せめてワクチンを打っていれば良かったのですが。今となっては手の施しようがありません。」

 「それではこのままで・・・」言葉が出なかった。


 フィラリアなんて聞いた事があっても、遠い国の病気だと思っていた。外で飼っていた事が原因だなんて、そんな事言われても。

気楽に考えていたのに、いきなりの事でショックだった。

 

嫌いな車に乗って家に着くと、アジは後ろ座席から外へ飛び出した。しかし脚に力が入らず、つんのめった。その様子を笑う気にもならなかった。


 冬美さんに報告をした。彼女もフィラリア症の事は良く知らなかった。医者の話をした。病状は思ったよりも悪く、どうやら手遅れで時間の問題らしい。

二人とも何も話せなくなった。


 手遅れって、このままどうなってしまうのだろうか。でもアジの顔を見たら、先の事は考えられなくなった。


 嫌な事は考えたくなかった。

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駄犬クロニクル QB マダオ @qbmadao

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