第22話 かくれんぼ

 冬美さんの家の向かいは畑だったが、ずっと放置されていて、荒地になっていた。

 最近、その荒地近辺が造成工事され、分譲地に変わった。


 分譲地内はきれいに整備され、新しく舗装道路ができた。まだ建物は建っていない。


  真新しい道路を、夜、冬美さんとアジの3人で散歩した。

周りに誰もいないのを確認して、アジのリードを外す。


 真新しいゴミステーションがあった。金網でできた屋根付きの小屋で、未使用だ。

 扉が開いていたので好奇心旺盛なアジは小屋の中に入って、いろいろ嗅ぎまわり始めた。


 夢中になっているのをいい事に、そーっと扉を閉め、かんぬきをかけた。

「じゃあな、アジ。」金網の中に声をかけた。

 気付いたアジは出ようとしたが小屋から出られない。

 慌てて行ったり来たり、金網に飛びついたりしている。パニック状態でジタバタしている様子がおかしくて笑いながら、しばらくして扉を開けた。ヤツが急いで飛び出してくる。


 ニヤニヤして見ていると、いきなり冬美さんが大きい声で怒った。


「何やってんの!アジは何もしていないのに、なんで閉じ込めるの?どうして意地悪するの?可哀そうでしょう。おかしいんじゃない。」


「えっ、それは、つい、出来心で...すんません。」

 言い訳ができなかった。いじめた訳ではないが、アジをかばう冬美さんのような優しさが、俺には欠けていた。反省する。


 別な日、夕方の散歩の時。

 いつものさびれた工場の脇の道を3人で歩いていた。近辺に人の気配は無い。

 リードを外すと、アジはこちらがのんびりと歩いている姿に安心して、10メートル位先にいってしまった。

「おーいアジ、まってくれー。」振り向かない。

 いたずら心が出てきた。

「アジが見てないから、隠れちゃおうか。ビックリすると思うよ。」

「うん。」


 立っている場所が小さな橋になっていた。下を用水路が流れている。橋から1メートルほど降り、二人で水路の脇に立った。

 中腰で道路に顔を出し、アジの様子を伺った。

 アジは全然気付いてない。


 向こうの方で、振り返ると、二人がいない事を知り、全速力で戻ってきた。


 道路沿いに顔を出して眺めていた。充分にこちらが見えているはずだが、ヤツはわからずに、一直線に通り過ぎて行ってしまった。


 顔を引っ込め、二人で見えないようにしゃがみこんだ。

 少したってアジが戻って来る。この辺り、おかしいな、と思った様だ。橋の上でウロウロしてすぐ、下でしゃがんでいる我々を見つけた。


 なんだ、お前たち、ここに居たのか。しっぽを振りながら見下ろしている。

 ハアハア舌を出しながら、早く来いといった顔をしている。


「ちょっと慌てたけど、何でもないよ」

 アジのそんな様子が、なんだかおかしくて、二人で「ふふふ」と笑ってしまった。


 冬美さんと仲直りできた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る