第81話 舞台裏


 どんなコンクールでも、舞台裏の時間は永遠のように長く、瞬間のように短い。

 鮮やかなセルリアンブルーの衣装に身を包んだいちかたちは、前の団体が終わるのを待っていた。


 何度経験しても慣れない、出番を待つ独特の緊張感。


 奇遇なことに、前のバンドは常開大ニューロードだった。

 入賞の常連である彼らの演奏は、さすがのクオリティだ。

 舞台袖で演奏の様子を見ていると、碧音がすぐ近くで同じように聞いていることに気づいた。


 いちかは、一歩近寄って言った。


「約束守りましたよ。翠さんを本選まで連れてくるって約束」

「あぁ?……あぁ、んなもんあったな」碧音が、遠い昔を思い出すように目を細める。

「じゃあ、焼肉かな」いちかが悪戯っぽく嘯いた。

「調子に乗りやがって……」

「お寿司でもいいですよ。なんか、回らないタイプのお店があるらしいんですよ」

「俺は知らねぇな、そんな店」


 碧音は頭を掻いて言った。


「最優秀ソリスト賞取ってやる。それで勘弁しろ」


 いちかが碧音の表情を伺うと、いちかと同じく、不敵に笑っていた。


「そこの二人……!」

 遠くから呼ぶ声がした。

 気づかないうちに、他の部員たちは既に円陣を組んで、碧音といちかを手招きしている。


 二人が輪の中に加わると、翠が唐突に宣告した。


「いちかちゃん、よろしく!」

「えっ、私⁉」


「ヤマノのリーダーは、いちかちゃんだから」悪戯っぽい視線で言う。「よろしく!」

 決定事項。拒否権なし。議論の余地なし。

 参ったなとは思ったが、しかし、言うべきことは自然とすぐに浮かんだ。


 輪を作る十七人の視線を受け、いちかは口を開いた。


「私、ここに来ることが去年からの夢でした」


 そう。

 去年の夏。

 このホールから始まった憧れを叶えるために、生きてきた。

 でも――


「でも、今はそんなことより、みんなと早く演奏がしたくてたまらない!今日は目一杯、楽しみましょう!」


 いちかは胸を膨らませた。


「セルリアンジャズオーケストラ、行くぞっ!」

「おぉーっ!」





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