第79話 夢の舞台


 八月の大宮は、あの日と同じように、灼熱地獄だった。

 雲ひとつなく抜けるような快晴の下、天地両面から放たれる熱に炙られながら、汗だくになって歩く。


 何もかもが去年と同じだが、違うのは一人で向かっているのではないことだった。


 今日まで共に戦ってきた仲間たちが、今年のいちかの道連れだ。


 不良扱いされていた部の過去、部員不足の問題、翠と碧音が向き合ってきた『トラウマ』……

 空中崩壊寸前までいったバンドだったが、今はこうして、全員が同じ場所を目指している。


 今この状況が、いちかには奇跡のように思えてならなかった。


 辿り着いた目的地を、いちかは眩しく見上げた。


 大宮ソニックシティ――


 一年間想い続けた会場が、あのときと変わらない青空を背にして、セルリアンのメンバーたちを出迎えていた。

 会場前には、個性豊かなステージ衣装で身を飾った学生たちが、あちらこちらに散らばっている。


 まさか自分が出演する側になるなんて。

 去年の今頃は、想像もしていなかった……


「アチー!今夜はビールだなこりゃ」


 怜がシャツの襟元をパタパタ仰ぎながら、およそ学生とは思えないセリフを吐いて、さっさと会場内に入っていってしまった。

 その後を、部員たちの列がガヤガヤと騒がしくついていく。


 ただ、いちかだけは、ホールを仰ぎ見たまま、立ち止まっていた。

 押し寄せる感慨に、動くことさえできない……

 しばらく見上げ続けて、ふと気づくと、隣で雄也が嬉しそうにしながら、待っていた。


「置いてかれちゃうよ」彼は、いちかに笑いかけた。「行こ」


「うん!」


 いちかは、夢の舞台へ向かって歩み始めた。





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