第68話 光
――ドボン。
小さな音が夜の空に広がって消える。
何事もなかったかのように、残された世界は静かだった。
「お前さ、別のバンド入れよ。団体選べば、ヤマノくらいすぐ行ける。お前なら、どこでも歓迎されんだろ」
どこかスッキリした顔で言う碧音を、いちかはじっと見ていた。
「なんだよ。何見てんだよ」
「嫌……」
「あ?」
「嫌だ」
突然、いちかは反転して駆け出した。
「あ?おい!」
碧音の呼びかけを背中に受けながら、全速力で川沿いの土手を向かう。
街灯を頼りに、いちかは黒い川に目を凝らし、それを探した。
同時に、着膨れるほどに重ねていた上着やズボンを次々に脱ぎ捨て、パジャマ姿になる。
「おい、バカ!待て!何する気だ!」
遠くに響く碧音の叫び声を無視して、川の流れを睨み続けると、わずかな光が暗闇にキラリと反射した。
「――あったッ」
碧音の楽器ケースは、川の中ほどを滑るように流されていた。
いちかは、パジャマの袖と裾をまくり上げると、躊躇うことなく川水に足を突っ込んでいく。
素足にまとわりつく黒々とした水の冷たさに、全身が激しく震えた。
しかし、目標は、刻一刻と流れ去ろうとしている。凍えている時間はない。
深く呼吸しながら、腰まで進み、胸まで沈むと、突然、底に足がつかなくなった。
「うわっ……ぷはっ!」
いちかは慌てて浮上すると、そのまま冬の川を泳ぎ始めた。
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