第51話 遊び半分
夜までパート練習し、部屋に戻って布団で眠りこけ、迎えた翌日。
部員たちは合宿用のラフな格好で――寝巻きのままの人間もいる――寝ぼけ眼で基礎練習し、朝の合奏に臨んだ。
マスターとの作戦会議の結果、今日は合奏をメインに行うことになった。
一度曲を通し、部分を取り出して精査していく。
マスターは昨日のようにバンドの前で悩み込んでから、ドラムの元へ足を運んだ。
美雪と、その横に座る松葉杖の夏雄が見上げる中、マスターは苦渋の表情で告げた。
「白上ちゃんは、上手いんだけどさぁ。その、ノリがジャズじゃねぇんだよなぁ……」
「はぁ……」
ポカンとしている美雪に、マスターはジェスチャーを交えて説明し始める。
「ここのおかずってさぁ、ブルルダッ!ってきてほしいんだよ。白上ちゃんのはトルルタッって、なんか軽いワケ。それだとフォルテまでみんな勢いづかないからさ」
美雪が試しに叩いてみる。
「こうですか?こう?」
マスターは無言で首を振る。
「違ぇんだ。夏雄わかるよな?このノってねぇ感じ」
「いや、微妙っす」
「かーっ!先輩!」
マスターは、美雪を席から立たせ、自分でドラムを実演し始めた。
「ブルルダッ!ズゥダッ!ズダッ‼」
「大変だ……」
ゆうゆがいちかの横で苦笑いして呟くと、ドラム椅子の上からマスターの大声が飛んできた。
「あとサックス!」
「はいっ!」
「Gのサックスソリ、指追っつかせろよ!あれバランバランだぜ」
「はい!」
「あとトロンボーンは縦がまったくわからん!リズム曖昧でしょ、もっかいみんなで楽譜確認して」
「はい!」
「トランペットは……色々バランスが悪い。お互いにフォローしてあげて」
「はい」
その日は、山が夕焼けに染まるまでマスターの指示が飛び続けた。
・・・
多目的室前の談話スペースに戻ってくると、ほとんどの部員がコの字に並んだソファにひっくり返った。
「うぁぁ……僕もう死ぬ寸前やわ……」普段快活な虎丸が、今は長い体を犬のように伸ばして呻いている。
「夏合宿より全然きついね」璃子は膝を抱え込んでハァと深いため息を吐いた。
「ひな、これできないよ……足引っ張っちゃう」
部屋の隅では、日向子がエリカに撫でられながら今にも泣きそうな顔で沈んでいた。
純真な太陽のようだった笑顔は、影に潜んでしまっている。
雰囲気は重く、暗い。
いちかがなんと励ませばいいか迷っていると、鈍重な空気を破るように、広大が提案した。
「気分転換に、山降りて温泉行くか?」
途端に、部員たちは色めきだった。
「お父さんサイコー!」日向子の隣でエリカが叫んだ。
「でも、この人数は車乗らなくないですか?」雄也が懸念する。
「もう一台借りればええやん」夜鶴が気軽に返す。
「いやいや、そんな暇ないですって」いちかは慌てて間に入った。「練習しないと。何のために合宿してるんですか」
いちかの言葉が響くと、時が一瞬止まった。
「あっはは、冗談冗談……」
そう言いながらも、広大の落胆ぶりは言葉尻に漏れていた。
他の部員も同じようで、エリカなどは明らかに睨んでいた。
いちかには理解できなかった。
さっきまであんなにダメ出しを喰らっていたのに、どうして行く気になる?
みんなこのままで平気なのか……?
いちかの思考を見抜いたのか、再びガヤガヤと騒がしくなった部員たちの間を翠がそろっと近づいてきて、いちかに耳打ちした。
「うちの合宿、ずっと遊び半分だったからさ。みんな頑張るモードには慣れてないんだよ」
「それは……」
そうですか、で済ませていいことなのだろうか。
せっかく合宿で練習時間を確保したというのに、全体の士気には変化がなく、このままでは合宿のための練習になってしまいそうだった。
どうやって、この部活をヤマノに向かわせていけばいいのだろう。
いちかも、マスターと同じように頭を抱えたくなった。
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