第49話 合宿初日


 しばらく駐車場で待っていると、一台の黒い車が止まる。

 中から出てきたのは、スキンヘッドの男。


 定演の会場だったジャズバーの店長だった。

 店舗経営もやりつつ、ジャズミュージシャンとしても現役で、去年のヤマノではセルリアンのコーチを務めていた人だったらしい。


 彼は開口一番嘆いた。


「いやホント大変だった、ここまで来んの!山を越え谷を越え!」

「ごめんね、マスター。わざわざ来てもらっちゃって」翠が手を合わせる。

「いやぁ、姉さんに頼まれたら来るしかねぇっすよ」

「またまたぁ」

 マスターと呼ばれるスキンヘッドの彼は見た目には四十代ほどのようだったが、翠はまるで同級生みたいに会話していた。


 いちかは彼女が一体何歳なのか、よくわからなくなった。

 外見も相まって圧倒的に大人に見えるときもあれば、小学生のように無邪気な顔をしたりもする。


「君は?一年生?」マスターが翠の隣で出迎えたいちかに目をやる。

「あ、金海です。一年です」

「金海ちゃんね。よろちく」彼は軽く挨拶すると、翠に尋ねる。「もう音出ししてんの?」

「ごめんね、私たちもさっき着いたからさ。少し待ってて」

「了解。久しぶりに碧音しばくかぁ」

 二人が合宿所に入る後をついていきながら、いちかはまるで大人の話を聞く子供のような気分になっていた。


・・・


 多目的室を整理して作った合宿体形に、メンバー全員が楽器を持って座る。

 創部後初の、部員オンリーのフルバンド編成だ。


 バンドの前で、長机にスコアを広げ、マスターが言った。


「んじゃ、とりあえず聴かせてよ」

 合宿所に、コンテスト用の曲が響き始める。

 楽譜を手に聞いていたマスターは、徐々にしかめっ面になっていき、曲が終わる頃には頭を抱えていた。


「うぁー」彼はツルツルの頭を叩きながら唸った。「なんか、合奏以前だな……」


 ですよね。

 いちかも、部員たちも、密かに頷く。


 冬休みに入ってからというもの、部員はなかなか集まらず、全員で合奏できた機会は、片手で数えるほどだった。

 しかも、今のメンバーは、半数がC年や大学から楽器を始めた人で構成されている。

 エキストラだらけだった去年とは、名前が同じだけの実質別のバンドだ。


 マスターが最初に施した指導は、セクション毎の基礎練習だった。


 合宿初日の練習時間はあっという間に消え去っていった……





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