第43話 チャット


 東央大生御用達の、大学近くの安い定食屋。


 夕食を済ませに来た大学生たちの酷い騒がしさの中で、いちかは何度もスマホを前に苦悩していた。

 テーブルの対面では、雄也がその様子を眺めて笑っている。


「何?白上さんのこと好きなの?」

「そうじゃないけどぉ……」

「僕が送ろうか?」

「いや……これは私の戦いだから……」

 息も荒く、スマホ画面と対峙する。


 白上美雪との個人チャットは、高三の春頃から一切動いていなかった。それに再びメッセージを投下しようとしているのだ。

 文面は既に書いている。

 後は送信ボタンを押すだけ……押すだけ……


「うぅ……うぇ……えいッ‼」

 ありったけの気合いと勇気を込めてボタンを押すと、メッセージはシュポッと軽快な音を立てて、電子の海を飛んでいった。


「送っちゃった……」

「おめでとー。一時間かかったね」

「文章大丈夫だよね?まずくない?」

「それも百回くらい聞かれたよ」

「あぁ、今すぐ取り消したい……読まないでくれぇ……」


 その願いも虚しく、チャットはあっさり既読がついた。


「うわぁ、読まれたっ!」

「ブロックされてなくて良かったじゃん」雄也が身を乗り出して覗き込む。「なんて?」

「明日の四限に学生ホール三階にいる、って」

「うぇーい」


 雄也がからかうようにいちかの肩を叩いた。





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