第41話 治癒室〜REAL POWER〜


 全国区に知られる有名な街の大通りを進み、若者たちの賑わいを尻目に小道に入る。


 三人が足を止めたのは、かなり怪しい地下への階段だった。


 入口上部には、世界各地の言語でクリニック名が書かれた看板。

 大量に貼られた原色のチラシが目に悪く、階段沿いの壁には、未開の民族が呪術で使いそうな木彫りの面や槍などが飾られている。


 通行人は皆、派手なエントランスを横目に見ては、足早に歩き去っていく。

 普通に生きていれば、間違いなく用のない場所だ。


「地図、間違ってないですか?」いちかは一片の期待を込めて聞いた。

「ここだね。入り口がホームページと一緒」

「じゃあ合ってますね……」

「時間だ。行くぞ」

 いちかの横から、碧音が先立って階段を降りていった。

 翠も躊躇なく降りていくので、いちかも恐る恐るついていく……


・・・


 思いの外普通だった受付で問診票を書き、案内された「治癒室〜REAL POWER〜」と書かれた部屋に入ると、サイケデリックな白衣を着た男がいた。


 胸には「佐々木教授」と書かれた名札が貼ってある


 彼は入室してきた三人を見ると、部屋の大きさを勘違いしているのではと思うような大声で叫んだ。


「トリオなんだね‼いいよ‼そこに座ってね‼」

 教授は部屋の中心に出された三つの虹色の椅子を差し示した。


 いちかはおずおずとそこに座り、部屋を見渡す。

 広さは十五畳程度で壁は白色の普通の部屋だ――天井にミラーボールがある以外は。


 教授と同じサイケな白衣を纏った助手たちが、部屋中を忙しなく動き回り、壁についたスイッチを入れると、四方の壁に眩しい色の円が揺れ動き始めた。

 ミラーボールとプロジェクターで作り上げているようだ。


 それは波紋のように広がり、形を変え、いちかたちの平衡感覚を呑み込んでいった。

 授業で教わった薬物の幻覚症状とソックリだ。


「REAL POWER‼」


 教授が手を鳴らすと、突然の爆音がいちかたちの耳を襲った。

 クラブミュージックのようだが、音割れが酷い。


 教授は盆踊りとヒップホップを混ぜ合わせたような見たこともないダンスを披露していた。

 三人が立ち尽くしていると、助手たちが張り裂けんばかりの声で指示した。


「先生のように踊ってください‼さあ‼」

 翠は素直に立ち上がって、見よう見真似に踊り出した。


「こうですか⁉」

「イェス‼ほら、他の方も‼レッツダンス‼」

 いちかは戸惑い、碧音をチラと盗み見ると、驚くことに彼も言われるがまま踊り始めた。


「笑って笑って‼笑顔でハッピー‼」

 恐れを知らない教授の振りにいちかの方がドキドキしてその反応を見ると、碧音は快活な笑みで答えていた。

 嫌々という気配は微塵もない。

 なんなら、百点満点だ。


 唖然と見上げていると、碧音と目線がかち合ってしまった。

 その目は笑顔の陽気さに対して、力強く語っていた。


 ――本気でやれ。


 いちかは弾かれたように立ち上がり、勃興してくる理性を抑えて、同じように四肢を動かし始めた。


 教授の指示のままに前に踊ったり横に舞ったりの数十分。

 三人はただ素直に踊り続けた。


 体力はとっくに尽きているが、精神が完全におかしくなっている。

 思考は爆音にかき消され、自分と世界の境も曖昧に溶けていく……


 そのとき、


「ハイ振り返ってッ‼」

 突然、教授の鋭い声が響いた。


 三人は一斉に後ろを向くと、そこにあったはずの白壁が、いつの間にか鏡張りになっている。

 満面の笑顔を浮かべて妙ちくりんなポーズの自分の姿を突きつけられ、急に冷静に戻る。


「さぁ、なんでしょうこれは」

 こちらが聞きたい。

 不意に訪れた静寂に耳鳴りがする。


「これは、プライドも恥も捨て去った、すっぴんのあなた。心の扉をこじ開けるには、大きなエネルギーと、自分に向き合う覚悟が必要なのです」彼は厳かに手を出し、促した。「今なら弾けますよ。どうぞ」


 その言葉を聞くや否や、碧音は自分のリュックに飛びついた。

 中から引っ張り出したのは、携帯できるサイズの電子キーボード。


 それを翠の膝に置くと、翠の手はまるで導かれるようにキーボードの上に置かれた……





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