第39話 喫煙所


 いちかは第三部室棟近くの喫煙所で、碧音がプカプカとタバコをふかすのを眺めていた。


 非喫煙者に用はないはずのこの場所になぜいるかというと、碧音に連れてこられたからだ。


 喫煙所と言っても、何か立派な部屋があるわけではない。

 背中で寄りかかる程度の低いコンクリート壁で囲まれた、ただの拭きさらしの野外だ。


 寒空の下、奢られた缶コーヒーに口をつけながら、ずっと昔、父が吸っていたのを思い出していた。

 煙をポンポンと吐き出す様に、似たような雰囲気を感じる。

 タバコを味わっているというよりは、考えごとの足しにしているような感じだ。


「お前、翠のこと調べたか?」碧音は唐突に口を開いた。

「はい」

「そうか」碧音はタバコを燻らせ、煙を吐く。「どう思った?」

「……酷いなって思いました。状況も、追いかけられ方も」

「同感」

 彼はまた煙を吐くと口を閉ざし、タバコの灰を吸い殻入れに落とす。


「あの、私にできることがあったら、言ってくださいね」

「お前にできることなんてねぇよ」彼が目を細めて言った。「ただ、翠はお前に用があるらしいけどな……」

「え……?」

「あのな」

 碧音が口を開いたとき、


「ありゃ、いっちーかな。おーい!」

 遠く部室棟の笹藪の方から声がした。

 広大と隼人が手を振って喫煙スペースにやってくる。


「お、いちかちゃんもヤニヤニ?」隼人が口元に指を近づける。

「いや、未成年ですから」


 顔の前で手を振っていると、背後で碧音の声が聞こえてきた。


「明日の十時、駅前に来い。誰にも言うなよ」

「え?それ、翠さんが……?」

 聞き返すも、碧音は取り合わず、広大と隼人と入れ違いに去っていった。


「どったの?」隼人が碧音の背中を振り返って尋ねる。

「いや、なんか……」いちかはぐっと言葉を飲み込んだ。「ヤニヤニに付き合ったら、置いてかれました」


「なっはは!可哀想に!」広大が鷹揚に笑った。「代わりに先輩が飲みもん買ってやろう。何がいい?」

「え、じゃあコーヒー」


「おい、隼人」

「え、先輩って俺っすか⁉」


 隼人は目を丸くしつつ、素直に自販機に向かっていった。





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