第23話 悩み


「うーん……うーん……?」

 部室に帰ってきたいちかは、机の上で思い悩み始めた。


「ど、どうしたの……?」芳樹がおずおずと声をかけてくる。

「いや、なんでも」

 誰が見ても何かある顔で、いちかは唸るように答える。


 頭を悩ませているのは碧音のことだ。


 先ほどの捨て台詞は耳に残っており、あんなやつ呼んでも良いことないんじゃないか?と憤慨した自分が囁いていた。


 反対に、打算的な自分が、彼は大きな武器になるし、あのスキルでどこにも所属していない人なんて稀だ、入れるべきだ、と主張している。


 すぐに統一見解は出なさそうだ。


 ひとり逡巡していると、部室の重たい防音扉が音を立てて開き、翠と雄也が姿を見せた。


「朗報ー!」翠のご機嫌な声が飛ぶ。

 部室にいた人間たちが揃って視線をやった。


「みんな聞いて聞いて。学祭の出し物なんだけどね。一日目って、いつもボランティアサークルが募金集めするじゃない?そことコラボしてチャリティとして演奏すればいいんじゃないかって、昨日気づいちゃったの!」

 彼女は興奮していた。


 椅子数脚並べた上に寝ていた夜鶴が、むくりと体を起こす。


「いつも学生ホールと中央棟の間でやっとるやつやんな」

「そう!」

「大通りのど真ん中だ!」璃子が興奮して返す。

「その通り!」翠は宝くじにでも当たったような熱量で答えた。「人に聞いてもらえて、クリーンで、良い子だってわかる!バッチグーでしょ?」


「確かに……あのセルリアンが募金集めしてたら、ビックリする……」芳樹が静かに感嘆する。

「このまえまで、"こなあつめ"してたのにね」

 恐れを知らないユラの発言に、みんな苦笑いした。


「ええ感じやけど、そう狙い通りコラボしてもらえるん?」夜鶴が重い瞼をさらに細めて尋ねる。

「雄也大先生……」

 翠が恭しく雄也に道を譲ると、雄也が大仰に手をあげながら、前に出て言った。


「僕、あそこのサークル長とスイーツ友達なので、さっき翠さんと持ちかけに行って、是非!って言ってもらえました」

「何者なん、この子は?」夜鶴は呆れていた。

「スイーツ友達?なにその女子力」璃子が彼の力に怯えている。

「という訳で、今年の学祭は屋台とチャリティとビッグバンドの三本柱で行くから!みんなよろしく!」


「あ……でも、ビッグバンドはトラがまだ……」芳樹が小さな声で止める。

「あ、それもね、エレナちゃんがテナーサックス見つけてくれたみたい。怜とさくらちゃんもまた来てくれるって。だから全パート揃った!パーペキ!」


 部活の空気が一気に軽くなったのがわかった。


 技術はあるのだ。演奏さえ見てもらえれば、入部希望者もきっと現れる。


 そうすれば、ヤマノにも自分達の力でいけるかもしれない……


 いちかの中にも、能天気な希望が湧いていた。


 ただ、それを邪魔するように、碧音の事が頭の隅に転がっていた。





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