【１７０００ＰＶ】アオの音🎺 〜ジャズビッグバンドと独りぼっちの少女〜

第11話 思い込み

　十年に渡って蓄積した音楽の経験値が、慌てて目を覚まし、いちかに訴えていた。

　おかしい――！

　この人たち、上手すぎる――！

　彼らの作り出したビートは、一瞬にして会場を席巻した。

　ベースが下からリズムを前へ突き動かし、ピアノとギターが固く踏み均していく。

　トランペット、トロンボーン、サックスからなるホーンセクションが、一糸乱れぬ動きで熱いメロディーを奏で始める。

　十七人の演奏者の音はしっかりと混じり合い、脈動していた。

　いちかはあっという間に、彼らの演奏に飲み込まれてしまっていた。

　信じられない。信じたくない。これが本当に同年代の演奏か。

　まるで、プロじゃん……

　いちかは自然と前のめりで眩しい舞台を凝視している自分に気づいた。

　バンドがしばらく整ったアンサンブルを聞かせた後、一人のトランペッターが、ステージの前方に抜け出してきた。

　いちかは我に返った。

　そうだ、これはジャズなんだ。

　この上に、アドリブソロがあるんだ……

　ソリストは、例の晴れ舞台用衣装なのか、ガラの悪いシャツにサングラスをかけ、かなりイカつい。

　彼は、ソリスト用マイクの前でパラパラとピストンを弄んで――構えた。

　瞬間、アップテンポに動いていたバンドが急停止する。

　その波に乗るように、ソリストはとてつもなく速いパッセージを吹き鳴らした。

　バンドからひとり飛び出した彼のソロは、圧巻だった。

　イカつい見た目とは裏腹に、その優雅な演奏はまるで金色の華であり、雲ひとつない夏の青空を思わせた。

　隣の女性が口に手を当てたのが、横目にわかる。

　いちかは呆気にとられながら、気づけば顔を真っ赤にしていた。

　彼らの気迫の音が心を撃ち抜く度に、自分が恥ずかしく思えて仕方なかったのだ。

　ステージ上の彼らが、いちか以上に真剣に音楽と向き合っているのは、音を聞けば明らかだった。

　それを、雰囲気、いや、先入観で判断しようとしていた自分に気づいた。

　自分の凝り固まったプライド、もう傷つきたくないという逃げの姿勢、虚しい感傷。

　それらすべてが、今や手に取るように分かった。

　なんて情けないんだろう……

　トランペッターが楽器から口を離すと、会場で割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こった。

　しかし、演奏はまだ続く。

　ステージ上の雄也は、今にも飛び跳ねそうな勢いでサックスを吹いている。

　本当に楽しそうで、羨ましかった。

　いちかは涙を拭うと、もう一音も聞き逃すまいとするように、前のめりに座り直した。

　私は何を勘違いしていたんだろう……音楽は、ずっと自由だったんだ……

　演奏が進んでいくほどに、いちかは自分を拘束していた鎖から解放されていくようだった。

　いちかは我知らず、小さく呟いていた。

「私も、ここに出たい……」

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