突然の同居人
その後、どうしたのか、ですか?
どうもしません。
私は普通に、何食わぬ顔で学校に戻りました。
先に学校に戻っていた担任の先生や、校長先生、それから警察の人も、とてもとても驚いて、誘拐されていた間の出来事を、たくさん訊かれました。
「危害は加えられていません。袋を被せられていたので、犯人の顔も見ていません。それと、運転手さんは犯人とは関係ありません」
とにかく私はそう言い続け、何とか解放されたのは、夜になってからでした。
ドッと疲れが押し寄せてきます。
疲労のあまり、ため息がでます。それでも私は、帰路につきます。
まだバスが残っていたのは、助かりました。
バスに揺られて、人通りの少なくなった駅へ。そこから電車に乗って、自宅最寄りの駅に降りると―――…
「お待ちしておりました、我らが姫君」
「おーう、遅かったな、姫様」
「………」
通り過ぎる人が誰でも振り向くような美形の二人が、私を待っていました。
私は、何だかとても恥ずかしくなって、二人の前を黙って通り過ぎました。
「して、どうでしたか? 上手く行きましたか?」
ルーガンディさんとブレアガルデさんが私の横に並んで歩き出します。
「多分大丈夫です。運転手さんも。それに、警察の方にも怪我人も出なかったそうです」
「そうですか。穏便に済んでよかった」
私は、穏便に済んでいません。
これから、どうすればいいのか。
わからないことだらけです。
「お二人が”先生”の描いた妖魔の騎士なのは、わかりました。けど、どうしてですか? どうして、妖魔の騎士の皆さんは、私の言う事を聞いてくれるんですか? 証を持っているというだけで、こんなに親切にしてくれるなんて、おかしいです」
私は再びルーガンディさんに尋ねました。
「貴女が、我らの父祖が信じ選んだ御方、というのもございます。しかしもう一つ、姫君にやっていただかなければならないことがあるのです。その為に、我々は貴女に御仕えするという目的がございます」
「私に、やってもらいたいこと…?」
「はい。私達の中から、戴冠に相応しき王を決めていただきたいのです」
「えぇ…!?」
王様を…私が決める!?
「父祖が信じ、全てを託した貴方が王を決める。そうすることで、父祖の作りし絵画世界は、初めて世界として成立するのです。そして、貴女は妃として―――」
「き、妃様…!?」
そ、それって、け、結婚するってことですか…!?
私が足を止めてどぎまぎしていると、ルーガンディさんの温かい手が、私の頬に触れました。
「お嫌ですか?」
「そ、そんなこと、か、考えられません―――!!」
顔が、身体の中が、沸騰してしまったように熱くなってしまいました!
「ははは、そうでしょうね。突然そのようなことを言われても」
「そ、そうですよ…」
「だから、ゆっくりとで構いません。いつか、私達を見極めていただきたい。私や、ブレアガルデだけではありません。散り散りになってしまった、他の騎士達も」
「………」
他の騎士―――…
浮かび上がってくるのは、私の記憶の中にある、”先生”のアトリエ。
そこに並んだ、異形の姿の騎士達の絵でした。
「故に我々は、姫君に認められるよう、最愛を以って御仕え致します」
でも、それは―――…それは、なんだか―――…
「ルーガンディさんも、王様になりたいんですか? 王様になりたいから、私に選んで貰いたいから、親切にしてくれるんですか?」
「………。そう思う者も、いるかも知れません」
ルーガンディさんは微笑みを崩しません。
「しかし、それ以前に私は一介の騎士。騎士とは信愛に
「ハッ! 格好つけやがって!」
ブレアガルデさんがつんとした表情で言いました。
「ほう。そういうブレアガルデはどうなんですか?」
「俺は王になる。そのために姫様に仕えるぜ!」
「す、凄く正直…」
「姫様のお眼鏡に適うのならば、雑用だろうがなんだろうがこなしてやるよ!」
「で、でも、その、仮に私が、ブレアガルデさんを選ばなかったら、どうするんですか?」
「あァ? まぁ、すげー残念ではあるな。それが?」
「そ、それが、って…」
「騎士ってのは王と王妃に従うもんだ。そこは間違えねぇよ、騎士の誇りに関わる」
「そうですね。騎士の誇りに関わります。安心しましたよ。発情した犬かと思いましたが、まだ騎士の心を残していたようです」
「お前、やっぱここで馬肉シチューになるか…?」
「け、喧嘩しないでください…!」
「…すみません」
「…チッ」
私は二人をたしなめます。
そうしていると、私のお家が見えてきました。
そこでふと、思いました。
「ところで、お二人はこれからどうするんでしょうか?」
「行く宛はありませんので、姫君の元に身を寄せさせて頂きたいと考えております」
「えぇ!?」
やっぱりそうなりますか!?
「しかし、それが難しいというのであれば―――…どうしますか? ブレアガルデ」
「そうだなぁ、とりあえず悪党でもブチのめして住処と金を奪うか」
「貴方にしてはスマートなアイディアですね。そう致しましょう」
「ま、待って! 待って下さい! そんなのダメです!」
どうしていつもそう乱暴なんでしょうか!?
あ、ひょっとして、妖魔だからでしょうか?
ちなみに、私の両親は仕事で忙しいし、仲が悪いので、揃って家に戻ることもなく、夜遅くに帰ってきて朝早く出ていきます。だから―――…
「家には―――その、誰もいないので…こっそり泊まるくらいなら、だ、大丈夫…です…」
言っている途中で、顔から火が出るほど恥ずかしくなりました。これは、みだりに言ってはダメなセリフだと気づいたからです!
「フフ、可愛いですね、我らが姫君は」
「か、からかわないで下さい!」
「それでは、姫君のご厚意に甘えると致しましょう。ああ、ご両親がいらっしゃる時は、我々は絵に戻りますので、ご安心を」
「けど、こう、ただ屋根を借りるってのも、申し訳ねぇな」
「それもそうですね。ならば私は執事として、姫君のお力になりましょう。家事全般に置かれましては、このルーガンディにお任せを」
「なら、俺はボディガードだな。細かい事には向かねぇし」
「よ、よろしくお願いしま…す……?」
何故かトントン拍子に、執事さんとボディガードさんが出来てしまいました。
私は執事さんとボディーガードさんを引き連れて、我が家の玄関を潜ります。
ようやく戻ってこれた。
今日だけは、そんな風に思いました。
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