甘えざかりなカノジョ【お試し版】

闇野ゆかい

第1話無防備な顔

「このまま、寝ていけそー」

「それは、いくらなんでも……」

顔の下から今にも眠りそうな声でそんな戯言たわごとを発した少女に、困惑の色を含ませた声で返す僕。

「いーちゃんになら、何をされたって構わないよ」

あっけらかんとした声で即座に返答した彼女に、僕は危機感を抱かずにはいられなかった。

「冗談でもそんなこと言うなんて、どうかしてる……ぼくの理性——」

「いーちゃんのいつものが始まったよー。いーちゃんの部屋に上がってるのに、今さらなこと言わなぁ〜いっ」

顔を部屋の扉に向けたままに、呆れて返す彼女。

僕の太腿に頭を載せた彼女の横顔でさえ、美しい。

校内での、僕に見せる表情とはかけ離れた好意を向ける表情よこがおが瞳を支配していた。

「……」

「いーちゃんは倫理観に囚われすぎぃー。柔軟じゅ〜なぁ〜んに〜、だよ。見ず知らずの人間じゃあるまいし、承諾うけいれてんだよ、むしろさ〜」

彼女の靴下を脱いだ裸足の五指が開いて閉じてを繰り返す。

お年頃の男子で、当然興味がないということではない。

彼女は、裏切らない。、とは違う。

分かってる。解ってる。

抱擁きしめられたいと、両手を広げて承諾うけいれるくらいな彼女だ。


彼女の触れた頭からじんわりと感じる温もりにいいようのない安堵が身体を伝っていく。




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甘えざかりなカノジョ【お試し版】 闇野ゆかい @kouyann

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