第3話 アメリカの間違い③ 一貫しない中国政策


私が小学校高学年になって不思議だったのは、中国が二つあったことである。日本人ならだれでも中国と云えば、大陸を思う。しかし国連で中国を代表しているのは台湾政府(中華民国)であった。アメリカも日本も大陸の中国を認めていなかった。


アメリカは、1937 年夏に日本が中国本土で軍事侵攻を始めると、中華民国政府

に対する本格的な財政支援を始め、1940 年 9 月の日独伊三国軍事同盟成立後は、

アジアとヨーロッパの脅威を同じ文脈で解釈し、対中支援を強化した。

英ソの協力なしには勝利が不可能であったヨーロッパとは異なり、アジア・太平洋戦線ではアメリカが決定的な役割を担ったことは、この地域の将来に圧倒的な発言権を有することを可能にした。

戦後東アジア構想については、ルーズベルノアメリカは、大国としての中国の形成、日本の民主化と非軍事化、植民地主義の清算、米ソ協調が骨格であり、その前提には親米的な国民党政権の維持があった。


第二次世界大戦が終結した後、中国国民党と中国共産党は再び国共内戦を再開した。蒋介石政府の腐敗、農民の支持に支えられた毛沢東の共産党、戦局の先は見えていた。1946年にジョージ・マーシャル全権特使(大戦中は参謀総長・後に国務長官・国防長官)は国民党と共産党に休戦を打診(統一政府を作ってアメリカが関与)するが蒋介石はこれを拒否、中国の工業および農業改革の復興を援助する計画も内戦により破綻した。


1949年10月毛沢東は中国人民共和国の建国を宣言。敗北した国民党軍は台湾に移動し、台湾国民政府を存続させた。1950年1月5日にトルーマンは台湾不干渉声明を発表した。これによってアチソン国務長官はアジアにおけるアメリカの防衛線をアリューシャン列島、日本、琉球、フィリピンに置き、韓国と台湾をその圏外に置いたのである。中国による台湾占領、中国の統一を黙認したものであった。もしこの時一歩踏み込んで、中国の建国を承認しておれば同年10月の朝鮮戦争は起きなかったであろうし、少なくとも中国の参戦はなかったであろう。そして一つの中国が実現していて今の台湾問題もなかったことになる。朝鮮戦争がなければ、ベトナムへのアメリカ介入もなかったことになる。

それを拒んだのがトルーマンのドクトリン(共産圏封じ込み作戦)である。資本主義国アメリカが真っ先に認める訳にはいかない?アメリカの朋友イギリスは1950年1月早々と中華人民共和国政府を承認したのである(蒋介石の「中華民国」とは断交した)。勿論、香港を考えての事であるが・・。

アメリカの核独占の“喪失”と中国の“喪失”という二重の“喪失”があったのである。トルーマンが再選出来ないだろうと立候補を断念した最大因である。



戦後まもなく米ソ間で始まった冷戦、そして中国内戦の悪化はアメリカの戦後東アジア構想の変容を余儀なくさせた。中国に代わって、日本の戦略的価値が高まり、アメリカは日本を東アジア政策の中核として再建、強化する政策に転じた。対日占領政策の転換を主導したのは、封じ込め政策の提唱者ケナンであった。朝鮮戦争は特需をもたらし、日本経済の復興のスタートとなった。歴史は皮肉なものである。


ピンポン外交・キシンジャー・ニクソンの突然の訪問(1971年)・米中の急接近は世界を驚かせた。ニクソンはベトナム戦争終結を模索し、当時はベトナムを支援していた中国に接近して和平の道を探ること、また中国と対立しているソ連を牽制することができる、と考えた。また、キッシンジャーの新しい勢力均衡論、つまり米ソの二極対立の時代は終わりソ連・欧州・日本・中国・アメリカの五大勢力が相互に均衡を保つことによって世界の安定を図るという考えを採用したものであった。

同年1971年、国連において北京の中華人民共和国政府が承認され、台湾の中華民国政府は追放された。日本も1972年に日中共同声明によって中華人民共和国との国交を樹立し、同年、アメリカも公式にそれに続いた。


米中の蜜月時代は続いたが、今や台湾有事がさけばれている。力を付けて来た中国の覇権主義的動きも問題であるが、二転三転する米国のご都合主義的中国政策にも大きな責任があると云わざるを得ない。

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