在りし日の午後
何とはなしに読書仲間の友人と利用した地元の図書館で、一冊の絵本が目に留まる。
中学生の私を虜にしたシンプルな白の装丁。
艶やかな表紙に弧を描く柔らかな線。
対象の造影から抜きでた表情。
一発描きで輪郭のみを模し、慈愛を写し取った微笑みは感傷的。
其の一瞬の美しさは正に天使。
【クレーの絵本】
鮮やかな色彩と記号的な抽象作品を多く遺した印象派パウル・クレーだが、絵本に用いられた鉛筆一本の線で灰に彩られた天使は穏やかに私を魅了した。
書を添えるは生きとし逝けるものへ真の生死の意味を与え問う、詩人、谷川俊太郎氏である。
こじつけの言葉では成し得ない、完成された「美」が其処にあった。
たった一冊の絵本。
白く耀く其が脳裏から離れなくなった瞬間。
その日は特別になった。
読書好きだからと言っては何だが、特別な一冊だからこそ、其の場で読み終えそのまま書棚に戻して帰った。
図書館の中で終える読書。
其が何とも心地好く、充足感がある。
その後、書店を訪れる機会は何度も在ったが…決してクレーの絵本は買わず、其きりである。
心に灯る一冊は自室の書棚で埃を被るよりも、活きて人から人へ伝わる方がよい。
塵より繊細で木漏れ日の風緩やかな曲線を描く夏空のように鮮烈な純白。
私を捕らえて離さぬ色。
Colorful.ColorLess… 靑煕 @ShuQShuQ-LENDO
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