非効率の除算と貧富の打算

約束された豊かな生活。

そんな譫言を囈として受け流さずして今の日本がある。


農家を営む者は生産すればする程、野菜や果物の単価は下がる一方で、米も1キロ当たりの平均値は数十年の内に半分以下となり生活も苦しくなった。生産調整の悪夢を繰り返す。

暮らしの豊かさとは無縁の労働地獄だ。


会社員も例外ではない。

大企業における末端社員の学歴重視傾向は言わずもがな、高学歴者よりも小難しい入社条件を必要としないITスキルを兼ねた高卒採用を率先し、学歴社会の傾斜も急降下と急上昇。

最早、規則など存在しない。

次世代マニュアルジェットコースターである。


資格の有無も学歴差も家庭の貧富は問わない。

肥大化したメディア産業と世界的電脳市場が幅を利かせ、プログラミングとゲームテクニックを磨いたZ世代の若者達が駆り出される社会。

スキルと言う名の電脳汚染。

擬物の中に紛れさせれば何が本物か見分けがつかない。デジタル世界で錯覚させながら現実感の無い仕事を与え、目に見えない物を可視化し価値を備え付けた実態無き豊かさ。


無論、私自身パソコンやスマートフォン無しの生活では文章作製の仕事もままならないが…

無料アプリに時間を費やし架空の満足感と闘い職場へ戻れば現実の疲労感に苛まれる。

ふと窓の外へ目を遣れば時間と季節が色濃く映り、一歩外へ出れば空気は四季に薫り、暑さ寒さを思い出させてくれる。

昼下がり、真夜中、早朝、夕暮れ…何時も車窓から過ぎる景色は悪くない。


価値観と価値は異なるものだ。

人間は贅沢なもので、有れば持て余し無ければ嘆く。時間も金も物質も同じ。不平不満もその日の内に済ませ、明後日には過ぎ忘れ去る。そんな気分の生き物だ。衣食住が充実していれば何て時代は当の昔。懐かしくさえある。

人を相手にする無意味さからなのか…この現代は仮想現実の発展に勤しみ人工知能を駆使してさも豊かで満ち足りた近未来を演じている。


物質に勝る価値は無い。

食い物は肉、魚、野菜、果物、穀物他。

砂糖や茶、煙草などの嗜好品諸々に至るまで生産者無しに豊かな食卓と生活を手に入れることはできない。

紙で作られた書物も日毎に感じる季節の変化も身に染みて生と言う他無いだろう。

焼畑の煙も冷たい夜霧も目に沁みる。

雨が降れば身震いしながら珈琲を入れ、窓打つ雨音と暑い湯気に安堵する。

ほんの一時、人生の僅な楽しみ。

時は掛替え無く物があるのは有難い。


其でも身をやつすのは画面の向こう。

君の願望は画面越しの擬物か。



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