ホストNo.1の俺が、異世界に来るなんて。まぁ、異世界でも頂点の座に君臨しているのだが。
ヨネフミ
1. 東京No.1ホスト
「こちらの姫様から、シャンパン頂いちゃいました! それでは、いつものいっちゃおう!」
今流行りの、ポップな音楽と共に、ホストたちは姫の前に集まりだす。ニカっと満面の笑みを浮かべるホストもいれば、クールを気取るものもいる。髪色やピアスなどの装飾品は違えど、みな正装でバッチリと飾っている。
「姫様の合図と共に、シャンパン注いじゃいま〜す!」
「今日も、ケントくんのために来てあげたんだからね! ケントくんも、私に会いたかったよね……?」
茶色がかった長髪の、少しふくよかな女性。年齢は、30前半、と言ったところだろうか。水色のドレスが、少し悲鳴をあげている。当の本人は、大勢のホストを前に、ただ1人のホストだけを視界に入れて、話している。
「もちろんさ。サトナちゃんが居なきゃ、俺の存在価値もまるでゼロだ。君のような、明るくて優しい、さらには美しさまで併せ持った天使ちゃんから、会いたかっただなんて……。俺も幸せ者だよ」
明るめの金髪に、センター分けを元にセットした髪型、細マッチョ体型で身長も180手前である、誰が見ても憧れてしまうであろう、俺の容姿。
そんな俺の最大の武器である、コミュ力と演技力。それを自由自在に操ることが出来るようになれば、一流、いや、No.1ホストなんて夢じゃない。現に俺は、東京でトップの座に君臨しているのだ。
「う、うぅ……。ケントくんの、そういうところが好き」
少し頬を赤らめながら、下をうつ向くその姿は、1人の恋する乙女だ。完全に堕ちている。
「ありがとう。そろそろ、場も煮詰まって来たところだし、シャンパンコールいっちゃう?」
「もちろん! ケントくん、他のホストさんたちも、シャンパンじゃんじゃんいっちゃってー!!」
『シャンパンじゃんじゃんコール、入りましたぁぁ! 積み上げられたシャンパンに、この店で1番高級なシャンパンが、じゃんじゃんと注がれていく! それじゃあ、姫様コール、いっちゃってー!!』
マイクを持った、少し歳のいった短髪おっさんが、音頭を取っていく。姫様コールの合図が出たあと、ホストたちは軽いダンスを踊って見せている。肝心の姫様ことサトナはというと、ダンスを踊っているホストそっちのけで、俺しか見えていない。
「サトナ、今日も楽しいかな?」
「えぇ! ケントくんがいなきゃ、この店は死骸みたいなものだけれどね。ケントくんがいる限り、私は幸せ!」
「そう、嬉しいよ」
注ぎ終わったシャンパンのグラスを、丁寧に分配していき、乾杯コールを迎える。サトナはいい感じに酔いが回っていき、俺の今日の業務も終わりへと近づいていた。
「ケーントくん! ちゅ〜!」
「こらこら、この店はちゅー禁止だよ。あとで、みんなが見てない時に、ね?」
「ひゃ、ひゃい……ケントひゃま……」
彼女は、完全にシャットダウンしてしまった。これにて営業終了。酔いつぶれてしまったサトナを、下っ端がタクシーへと運んで行く。
たかが数時間、小太りの女と話すだけで、月収は50万を超える。こんなにも旨い話が、この世界には存在するのだ。下っ端ホスト達は、営業が終了したあとも、掃除や後片付けに追われているが、俺はなんてったって東京イチのホスト。コキを使われる身分とは、天と地ほど遠い存在にいるのだ。
「ケントさん、今日もあの豚姫、すごかったっすねぇ。だって300万もするシャンパン、来るたびに開けちゃうんすよ? いっそのこと、遺産相続目当てに結婚しちゃったらどうっすか? ケントさんにベタ惚れなんすから、絶対いけますって!」
そう話すのは、マイクで音頭取りをしていた真島。この店の店長を任されている身ではあるが、東京No.1ホストである俺には、頭が上がらない立場。ホスト界では、俺の上に立てるものなど、誰1人としていないのだ。
「あぁ、真島。お前と話している暇はない。邪魔だ、消え失せろ」
俺がこのホストという世界で店の人と話す時は、命令か、叱るか、の二択のみ。安易にコミュニケーションを取っては、地位そのものが崩れてしまう可能性も大いにあるからだ。
「相変わらずですな……。ま、いくら資産あるからって、あんな豚姫と結婚するなんてイカれてるっすよね。お疲れっした。また、明日」
話を聞く素振りもせずに、俺はバックへと向かっていった。
軽くシャワーを済ませて、荷物をまとめる。その際に、担当の女の子へのアフター連絡も忘れない。無事帰宅したのか、今日も楽しかったのか、と言った内容だ。何日かに一度、自分の悩み相談をするのも、相手の心を掴むためには欠かさない、重要な業務だ。あくまで、仕事。
裏口から外に出た俺は、近くのカフェで、従業員全員が店から出るのを待っていた。うちの店は、従業員が総出で15人ほど。人数は多いが、その分広いので、10分や20分では清掃が終わらないのだ。
俺は勤務を終えたあと、必ずこのカフェに来る。人気がないため、長時間滞在しても文句ひとつ言われない。
肝心の、従業員の有無なのだが、お店の監視カメラと自分のスマホは、連携状態にあるので、ネット環境さえあれば、どこでも確認できる状態だ。
カフェオレを飲みながら、1時間半ほど経過してやっと店から人がいなくなった。
「……よし、行くか……」
完全に冷め切ってしまったカフェオレを一気に流し込んで、もう一度お店へと向かったのであった。
ホストNo.1の俺が、異世界に来るなんて。まぁ、異世界でも頂点の座に君臨しているのだが。 ヨネフミ @yonefumi
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