私は自分勝手

 あぁ、大失敗をしてしまった。どうしよう私のせいで負けになってしまう。朱さんにもきっと期待外れな思いをさせてしまった、あぁ、なんで私はこうなんだもっとちゃんと出来ることがあったはずなのに。

 思いが積もるごとに早歩きだったはずの足は、走り出してしまっていた。勢いよく客室の扉を開閉して背負っていた琴を下ろす。ドンッと壁にもたれかかり、そのままズルズルと座り込んだ。

「……っ」

 膝を抱え顔を埋めた。腕を青あざができるくらい強く握ぎった。私は逃げてきてしまった。あの空気が重たくて耐えられなくて。姉を残してこんな部屋に閉じこもって。

(自分勝手だな……私は)

 どうしようもなくなって自分を責めた。責めることでしか気持ちを保てなかった。目頭が熱くなるのを止めることはできなかったが、泣いているのを誰が聞いているでもないが、知られたくなくて声を殺していた。

 どれくらいそうしていたかはわからないが、誰かが廊下を歩く音が聞こえ、白噬明ハククウメイは微かに顔を上げた。思わず息を殺す。今は誰にも会いたくなく、存在すら知られたくなかった。

 ゆっくりと足音が廊下を渡る。床を軋ませるその音が通り好きるのを期待していた。しかし、無情にもそれは彼のいる戸の前で止まってしまった。戸へ差し込む光が床へ映し出される。落ちた影は曖昧な人の輪郭を作っていた。きっと外の影は声をかける。そう直感的に感じた白噬明ハククウメイは掠れた声を出して先手を打った。

「瑶晩……私は大丈夫です」

「……」

 あの惨状の後白噬明ハククウメイを訪ねるのは彼しかいない。

瑶晩ヨウハン?」

  瑶晩ヨウハンは幼い頃から白噬明ハククウメイのそばにいた。ほぼ兄弟のような存在で主従関係ではあったもののそれは明確ではなく、会話などは分け隔てなくしていた。だからお互いのことはよく知っている。あの惨状の後、白噬明ハククウメイを心配するのも、言いつけを守る瑶晩ヨウハンがここへ来ないことも。

「……兄さん」

「っ……」

 白噬明ハククウメイは目を見開いた。まさか彼が自分の元へ来てくれるとは考えもしなかったからだ。期待を裏切り、耐え切れず姉を残して、その場を後にした自分を責めていたと思っていた。そこまで行かなくても敬遠したり、何事も無かったかのように縁を切るられるものだと思っていた。いつものように。

「兄さん。開けて欲しいな」

 会う資格がないと思っているからこそ、声が出なかった。

「……」

「兄さんいるの知ってるよ?」

 戸の向こうから優しく穏やかな声が耳を撫でる。

「……」

 それでも白噬明ハククウメイは動けなかった。

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三つの罰に縛られて 柳鶴 @05092339

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