第14話 美味すぎる怪獣肉と経済問題
———怪獣と激闘を終えてから数時間後の夜。
頑張って(俺が)ティラガガガガドンを倒したから、なんと神様からご褒美が貰えるという話になり皆で地下食堂に集まった。
貰えるご褒美と言えばあれ。
内臓の殆どには毒とか細菌の問題があるので、専用施設で時間を掛けて処理しないと食べられないそうだ。神様がここへ転送させて来たのは俺達が倒した怪獣のサーロインやタンとか、4部位の合計200㎏程と太もも辺りにある骨の一部分になる。
「そうこれ、これなんですよーーーーー」
どれだけ食べたかったのか知らないが怪獣肉が転送されてくると、フィリアは私にやらせて下さいと嫌がるコックロボを追い出して厨房に陣取った。そして白いドレスの上にピンクエプロンを身に着けた彼女は、4次BOXからマイ包丁セットを取り出して涎を拭きながら怪獣肉の調理を開始する。
「まずこれからですね」
そう言うとフィリアは大鍋(俺がスッポリ入るサイズ)にお湯を沸かし始めた。
続いてドデンと怪獣肉をまな板に乗せたフィリアは、マイ包丁セットをズラっとその前に並べていって、「肩ロース、サーロイン、ミスジにタンどれから始めましょかウフッウフフフフ」と不気味に笑いだす。
「コノママフィリアサンニ、オマカセシテテモイイノデスカ?」
「ちょっと危ない気がするけど任せるしかないでしょ」
『その通りだな』
『ああなったフィリアには触らないでやってくれ』
「肩ロースとミスジは明日にするとして、最初はやはりサーロインですよねぇ。得意なタンカレーも作っちゃいましょう」
(コンロの大鍋はカレー用なのかな?)4次BOXから他にもハーブやスパイス等を取り出して用意しつつフィリアは包丁を構える。
まな板に載せられている獣肉の塊は【血が紫色なので地球人的には腐り掛けに見えるが解体したての新鮮な生肉】だ。適度に脂ののったサーロインへ包丁を当てたフィリアはスゥッと綺麗に切り分けていく。
「フィリアサンハナカナカジョウズデスネ」
『フィリアは怪獣肉を食べる為にずっと勉強と訓練して来たからな、興奮し過ぎてあれだがその腕は確かだぞ』
「まずは簡単にですね……」
お湯が沸く前にサーロインを切り分けたフィリアは、サイコロステーキに軽く塩とハーブを振って鼻歌を歌いつつサッと炒める。そしてその一つを口に放り込んで咀嚼した彼女は「この味は堪りませんーーーーー」って1人で感動した。
〘満面の笑顔に流れる一筋の涙……〙
フィリアは仰々しいなぁとか思いつつ、小皿に盛られて運ばれて来たサイコロステーキを俺はパクリ。すると俺は「ワウォーーン」(なんじゃこりゃーーーーーーーー、脳天まで肉汁が突き抜けるーーーーーーーー)パタンキュウとなってしまう。
「ちょっとポチ!」
「そうでしょう、そうでしょともポチさん」
「ポチに何を食べさせたのよフィリア」
「怪獣肉を食べれば分かりますよ」
「食べてみろって大丈夫なんでしょうね」
床で横倒れになってピクピクする俺、美味すぎて意識が飛び掛けるとか非常識だ。
椅子に座ってテーブルに載せられた皿の怪獣肉へ、フォークを突き刺した猫耳少女は薄紫色をした一口サイズの肉を見つめている。
「なんだか危なそうなんだけど」
「大丈夫ですって、ほら早く早く」
横でニヤニヤしている金髪女性を疑いの目で見上げつつ、怪獣肉を口に入れたアネラスは租借し始めて———動かなくなった。
「味はどうですかアネラスさん?」
口は動いているが心ここにあらずといった感じ、目の焦点があってなくて長い間その味を噛みしめてようやく飲み込んだ少女は一言
「まさかとは思うけどフィリア、料理する時に変な薬とか使ってないでしょうね?」
「思いますよねそれ!」
「寄って来ないでよ!」
興奮気味に詰め寄ろうとするフィリアを宥めつつ、ちょっとおしゃべりタイム。
「怪獣肉はですねぇ……」
《骨から皮に血液も全て売れる怪獣は原価200億リム以上の超高級食材也。
原価のうち【約9割】は聖神族(ミリィ様)と、ミーティア独立政府(ヘルドラゴン)に没収される。残りから戦艦の維持費・戦費・人件費等を出すと【得られる利益は雀の涙らしくて】、それでも怪獣に勝てればいいが負けようものなら……もう笑うしかないのだと皆は言う。》
「やっぱり止めようかしらこの仕事」
「怪獣肉が食べたくないんですか?」(食欲は全てに勝るのだ、この人は特に)
《【部位にもよるが怪獣肉は100gで2万5千R以上の超高級品。】
体重2万t×100gで1000リム=200億Rと単純に重さだけなら手頃な価格だが、此れに卸業者+オークションやプレミア価格+みかじめ料+環境維持税+関税+贅沢税+輸送費+加工費や調理費用が付いて、
【25倍以上のぼったくり価格になる超人気食材】である。》
(底辺を酷使して偉い人だけが大儲けすると。しかもあれだ怪獣ハンターはクラケンさん達が話していた通りにいらない職業……)
「惑星ミーティアから外に出すだけで税金が2つ。輸送時に経由する惑星とか転送ゲートが増えるとその度に税金、関税、税金、関税と掛かって、各保険料が高いですし宇宙海賊への対策として正規軍を使ったりもするんですよ」
(そうまでして怪獣を食べたいのか神様は……)
「此れだから表の世界は嫌いなのよ」
「もっと安価に量産できればいいんですが」
「怪獣さんに人権をーーーだっけ?」
「あはははは……」
「押し上げたら札束で叩いて独占するのよね?」
「そうですね」
「エヴィン教はどうなの?」
「さぁ〜〜〜どうなんでしょうねぇ」
「気に入らない組織とは戦争よーーーーーーー」
「……」
「私の出番だと思わないフィリア?」
「思いません! 決して思いませんとも!! 怪獣肉はですね……」
《怪獣肉は神様と賢者クラスの魔導士達が、肉汁・アミノ酸・脂肪等などが最高の美味さになるように、遺伝子操作とか錬金術を駆使して生み出したキメラ。ただでさえ美味いのに僅かに含まれるエーテル(EP、魔力の事)が、その味を数倍に引き上げてある種の麻薬にも似た効果を生み出すのだそうだ。》
それって危なそうだなぁとか俺は思ったりしたが、神様のする事だしなんか安全は保障される???らしいので、〘気付かない見えない振りで無視〙をする。
「怪獣ハンターを止めたら皆さんは二度と怪獣肉を食べられないと思います」
「エーテルとか食べても大丈夫なの? 中毒になったりしない訳……」
話を聞いてドン引きになるアネラスだがその目は怪獣肉から決して離れない。
「大丈夫です! 仮に危なかったとしてもですね……」
【俺達はエインヘリアルだから恐れる事は何もなく、エーテルが怖い人向けにそれを抜く調理法もあるそうだが、そんな勿体ない事は決してしてはいけない怪獣肉対する冒涜だとフィリアは声を大にして言う】。
「王族・資産家・高級店が常に奪い合っている食材ですので、一般の流通網には殆ど怪獣肉が出回りません。皆さんは怪獣肉のフルコースを食べた事がありませんよね」
「食べたらどうなるの?」
「怪獣肉に取り憑かれて私のように夢中になると思います。あっ忘れていました!」
パンッと両手を叩いた金髪美人は何を思い出したのか、笑顔になると床に立っている4本足の動物へ暑い眼差しを向けて興奮し始める。
「エヴィン教に入りませんかポチさん? ポチさんは絶対にエヴィン教へ入るべきだと思うんですが……」
(この話はもう聞きたくないぞーーー)って俺は思った。
(ほんとに美味いなぁこれ……)意識を持っていかれないように気を張りつつ、ティラガガガガドンのサーロイン・サイコロステーキを頬張っていると、持ち上げられた俺はあの最強兵器に抱きしめられてしまう。
「ゴッドチェンジは凄かったですねぇ、感動しちゃいましたよ私」
(……これはまずい! ひっじょうーーにまずい! 誰かお助けーーーーーーー)
拘束から逃れようと俺はジタバタするが、締め付ける力は増していきボヨンとしている弾力の海で溺れそうになった。
「エヴィン教に入ってくれたらサービスしてあげますよ、ポチさんは女性にこうされるのが大好きですよね?」(脱いでくれたらもっといいぞ! わはははは)
「恥ずかしくないのフィリア! あなたは大司教の娘なんでしょ」
「宗教なんかどうでもいいんです!」
「どうでもいいの?」
「———?! あ〜〜違います違います、どうでもよくは無いんですけど……」
(欲望丸出しとかそれでも宗教家か! 金髪美人のイメージが壊れるからそれは止めてーーー、ハァハァと涎を垂らしつつ俺を見つめないで下さいフィリアさん! どえらい人を仲間にしてしまったもんだ、誰かお助けHELP Meーーーーーーー)
「スコシハテイコウシロタダノヘンタイ」(しようがないじゃないか)
「フキョウカツドウキンシ」
「タイホサレタイノカフィリア」
「私は負けませんからーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
このまま死んじゃってもいいとか思う俺の回りで宗教家、量産型ロボット、ミリィ様にアネラスが喧嘩を始めて混乱状態へ。(宗教って……)
生と死が隣り合わせる世界にて(何回死んだよ俺)、
最高の食材を求めて【永遠に戦い続ける英雄?】(なんだかなぁ)な、
最高に格好いいヒーロー的? モテモテの予感がする?(宇宙戦艦が欲しい!)
エインヘリアル・戦死者の人生【ただの子犬】(俺は所詮……)。
魔王と戦うより全然ありかも知れない(かも知れない、かも知れないだぞ)、
よーし頑張る(かも知れない)ぞ俺ーーーーーーーーーー。
了
大怪獣物語 NewLife beginning 暇人X @yurou
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