目覚め
……気づいたら自分のベッドで眠っていた。
死ねなかったらしい。
あの程度の薬で死ねるとは思っていなかった。
目が覚めリビングによろめきながら歩いていく。フローリングの冷たさが足裏に伝わる。頭が未だにグラグラする。
お母さんは座椅子に座りタバコを吸っていた。
「……おはよう。」
「おはよう、お母さん」
「あんた、昨日のこと覚えてるの?」
「何も覚えてないよ」
「あんた、メッセージに『もう無理』って送って慌てて帰ってきたら部屋で倒れてたのよ。急いでかかりつけの病院に電話したわ。」
「うん。」
「起きたかと思ったらそのまままたぶっ倒れて。手もつけれなかったわ。二度とあんなことしないで」
「……うん。」
仕事は休職になった。
「こうなったのはあなたの責任よ」
「前にも言ったよね?なんでまた同じことを繰り返すの?出来る方法を自分で考えて」
「もっと自己発信しなよ」
休んでからも言われた言葉が頭に浮かんでいく。自分でも分からない。わからない。
なんで出来ないのか、なんでダメなのか、本当にわからない。
どうしたら良かったの?
優斗から大量にメッセージが来ていたので返すと直ぐに電話がかかってきた。
「大丈夫なの?」
「うん、生きてた」
「生きててくれてよかったよ」
私はその言葉に押し黙ってしまった。私は楽になりたかった。死んだら楽になると思っていたから。
今でさえ生きてるのが苦しかった。
生きていても聞こえる幻聴。思い出す言葉。全てが全て私を苦しめた。
「ごめん、今度こそは、失敗しないよ」
「えっ、待って、どういう……」
プツッ。
家の屋上に向かう。
親は仕事に行った。今はひとり。独り。
今度こそ、今度こそ。
もうODなんて甘えはしない。今度こそ勇気を持つんだ。
下を見る。人通りはなく、車も走らない。寂しい風景が拡がっていた。風が頬を撫でる。
決して高くない。だが、頭から落ちれば死ねるだろう。
奥は森林で田舎町だなと実感した。秋が訪れ紅葉し、葉が赤くなっているところと茶色で葉が枯れているのが目に見えた。
どうしてかな。
どうしてこうなったんだろう。
なんで?どうして?どうすれば良かったの。
柵に手をかける。
「まなちゃん!!!!」
振り返ると息を切らして切羽詰まった顔をした優斗が立っていた。
走ってきたのだろう。
「ごめんね、優くん。」
風を感じながら深く深く、息を吸い込んで深呼吸する。胸いっぱいに冷たい空気が入り込んできた。
「勇気を持って、私はどう行動するのか。私は何を感じて生きていくのか。」
私が私へ問いかける。
柵に手をかけ「よっこいしょ」と言いながら乗り越えた。一つ先は空。
「まなちゃん、やめて。そんなこと。」
優斗は泣きそうな顔をして近寄ってくる。
えくぼと歯を見せながら笑顔を作る。
優斗は察して急いで手が伸ばすも私には少し届かなかった。
「あっ……」
情けないそんな優斗の声を最後に、体は地面に叩きつけられる。
痛い。ジワジワと血がひろがっていくのを感じる。
遠くからサイレンが聞こえる。
意識は遠のいていく。
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