僕
僕の彼女は精神疾患を持っている。
統合失調症……?と言うらしい。
彼女は医療関係者だから詳しいかもしれないけれど僕には全く分からなかった。
彼女は毎日何かに怒り、悲しみ、それを全て僕にぶつけていた。そして後になって、「ごめん、ごめんね、私が全部悪いんだ」と自分を責め始めるのだった。
飲みかけの炭酸飲料のペットボトルを開ける。プシュゥ…と頼りない音を出して蓋は開いた。炭酸が抜け温いただの甘い水を喉に流し込む。
スマホがチカチカと通知が入り光る。それは何度も何度も繰り返し光っていた。
彼女だろう。きっとまた病んで僕にメッセージを連投しているのだ。
待受画面で通知を確認する。
「もう全部嫌になった」
「苦しい」
「どうしたらいいかわかんない」
「死にたい、消えたい」
「なんで返事くれないの?」
「返事くれないならもういいよ。」
「別れた方がいいと思う。」
彼女はいつもこうだ。最早慣れてきたが、唯一慣れないのは「別れる」という言葉。
彼女は簡単に別れを口にする。
僕はこんなにも彼女が好きなのにどうしたらわかって貰えるのだろう。男だから泣きたくない。けれど彼女のこの言葉にいつも感情が溢れてくる。怒りなどでは無い。ただ悲しかった。
どうすれば彼女を理解できるのか僕には分からなかった。早坂真波という人間を理解しきれてなかった。
彼女は言ったことを全て忘れてしまうから言うことが二転三転する。その度僕が伝えると喧嘩になってしまう。わかっているけど疑問に思って不思議に思って尋ねてしまう。
チカチカ延々と点滅するスマホを開いてメッセージを返す。そんな毎日。
正直苦しかった。でも彼女と離れることの方が何よりも辛かったから、僕は彼女から離れないでいた。いや、離れられなかったのかもしれない。
僕は頼りない男だ。情けない。
初めてだった。こんなにも自分に興味を持ってくれこんなにも求められることは僕にはなかった。だからこそ彼女に執着しているのだろうと思った。
仕事が終わる度に心身共に疲弊している彼女を見ていると僕はやるせない気持ちになった。
でも、僕は何も出来なかった。
まだ学生の僕には社会人の彼女の気持ちはわからなかった。
どれだけ苦しいか悩んでいるか共感しきることも出来ず、ただ話を聞くくらいしかできなかった。
どうして欲しいか、求めて欲しいし声に出して欲しいけれど、その時になると彼女は固く口を閉ざしてしまう。
「僕は別れたなくないよ。」その言葉を送るとまたメッセージが連投される。
僕にどうしろって言うんだ。
ただ支えになりたいだけなのに。
様子が心配になり、会いに行くことにした。
白の何もプリントされていないパーカーに、緩くなった黒ズボンを履く。
黒ずんだ靴は紐が解けていた。固くリボン結びをしようとしゃがむと、思わずため息が出る。
また前みたいに自傷行為をしてないといいけれど。会う度傷だらけになる彼女を見るのは心が痛む。
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玄関の前に立つと少し緊張が走った。会った瞬間怒鳴られるんじゃないか、嫌なことばかりを想像してしまう。
恐る恐るインターホンを鳴らす。
ゆっくりと扉が開かれるとそこには目が赤く腫れ上がりボロボロ泣いている彼女の姿があった。
「ゆうくん……」
泣いてる彼女を僕はどう接したらいいのか、なんて声をかければ怒られないのか、僕はそんなことばかり。自分のことばかり考えていた。
今回も仕事の事で悩んでいたらしい。
「そんなに嫌ならやめなよ……。まなちゃんが心配だよ僕。」
「それでも奨学金があるから辞めれないの、でもあんなに強く言われてばかりで、私……私……」
僕には強く抱き締めてあげることしか出来なかった。
僕にも勇気があれば。力があれば。
きみの力になれたかもしれないのに。
僕は無力だ。今の僕には君には何もしてあげることは出来ない。そうまた実感させられた。
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