第5話 闇の中の光と戸惑いとキュン

「ぎん。久し振り。

もう来ないかと思ってたよ。」


「ぎばあさん、お前を狩りに来た。」


「残念だけど、私はまだ死なない。

嫌われる人間ほど、長生きするもんでね。

若い頃は、触らぬあんたに祟り無し。なんて言われてたね。

頭の良い人間は、近寄っては来なかったよ。」


「じゃあ、俺は頭の悪い死神。

て、ところだな。

そんな事より、あいつをどうするつもりだよ。」


「さぁね。私にも分からない。

ただ、アレは私自身。

かも?知れないね。」


「面倒はゴメンなんだよ。」


「心配しなくても、私が居なくなれば終わる。」


「ばあさん。あんたの言葉は、ナイフと同じだ。」


「ぎん。お前達の時が止まるも動くも私次第。

でも、あなたは私の理想だから、

簡単には手放さないよ。」


「とんだババアに好かれたもんだよ。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ギン!?」

「ギン?どうしたの!?」


「!?あー、レイラか。

なんだ何か用か?」


「急に座り込んだから。」


「何でもない。さっきのアレクの攻撃のせいかもな。」


ギンは暫く黙り込んでいる。

普通にしてればとても死神には見えない。

でも、目が合うと、

震えるくらい、人殺しの目をしている。

言葉が通じるのがせめてもの救い。ちょっとは安心したけど、

でも、

上級の死神は、言葉を話さないという。

考えただけでも恐ろしい。

今すぐにでも

ここから逃げ出したい。

……

……?


バタン!バタン!


なんだろう?

音が聞こえる。

かすかな音だけれど。

行ってみようか。

でも何故か体が震える。


「やめておけ。おまえは好奇心の塊なのか?」

ギンはそう言うと、

とても気だるそうに立ち上がった。


「あの肉の塊、また見たいか?」


お腹の底から酸っぱいものが、

込み上げてくる。

そうか、さっきの宇宙ゴミ。

宇宙ゴミなんて言い方はしたくはないけれど。

あれは、宇宙に身を投げた人達の

成れの果て。

だけど、

あんなふうになってしまうと、

ただの吐き気のする肉の塊。

自分がそんな姿になる事を分かっていて、身を投げるのだろうか。


「ルチルの奴が、

どうせまた10体くらい運んで来たんだろうよ。」


「ルチル?」


「あいつは俺と同じ人間出身の

下級死神だ。

宇宙ゴミが大好きで、

俺が拾ったゴミさえ

横取りしやがる。

別にいらねぇから構わねーけど。

あいつは拾ったゴミを一度持ち帰る。

何やってんだか・・・。」


「探し物かな。」

私がそう言うと

ギンは返事をしなかった。



「お前さ、先に言っておく。

他の死神や、狩ることの決まっている人間の事を深く考えるのはやめとけよ。

死神は、狩ると決まった人間は必ず

狩る。

人間の世界の人間が決めた法律の

裁きと、こちらの世界の裁きは別。

同じでは無い。

そいつがどれだけ嘆いたところで、俺達は獲物を狩り、

魄(パク)を喰らう。

そして、死神に狩られた魂は、

本来なら昇れるはずの天には

昇れない。

地上でさ迷うか、

終わりの無い闇

ドリームルームへ送る。」


「ドリームルーム?」


「あぁ、名前とは真逆の世界だよ。お前は深く知る必要は無いけどな。」


深く知る必要がないと言われても、

気にならない訳がない。

あの、椅子になったおばあさんの時もそう。

この世界は一体・・・。


ギンはとても怖いけど、普通に話はしてくれる。

どうしてこの人は

死神になったのかも気になって

仕方がない。

考えるなと言われても

この世界の色々な事、

分からないことだらけで

考えてしまう。

自分の事すら何も分からないのに。


「やあ、ギン。

その子、私にちょうだい」


背後から声がした。

振り向くとそこには、


全身真っ赤な血に染まり、

翼は赤黒く、血のようだ。


若くて美しいその女性は、

ニヤリと笑みを浮かべている。


腕にはチェーンが巻き付き、

大きなカマとつながっている。


「悪いなルチル。こいつは俺が

アレクから預かった、

あいつのおもちゃだ。

だから渡す訳にはいかねんだ。」


「ちぇっ!」

ルチルはそう言い

一瞬鋭い目でギンを睨んだ。

しかしその目は、

感情が無い様に見える。

急に斜め左上に視線を逸らしたかと思うと、

何やらブツブツ言いながら、

去っていった。


「ありゃ呪われてるな。」


「呪われてる?」


「あぁ、長時間、多くの宇宙ゴミに触れていると、呪われるって話だ。

あいつは、ベースが人間だから、

特に呪いの類いにはかかりやすい。

一応覚えとけ。」


「分かった。」


「そろそろ狩りにでも行きたいところだけど・・・お前を抱えて飛べと言われてもな。アレクのやつ、何考えてんだか。

なぁ、レイラ、

お前早く羽根出せよ。」


私はギンのその言葉を無視した。

そんな事を言われても、

どうしたら良いのか全くわからないから。


「ねえ、ギン。

どうして死神なんかになったの?」


私の唐突な質問に、

彼の顔色は急変し、

そして、

私を押し倒し首を絞めた。


えっ!


苦しい。

苦しい!

苦しくて暴れてもギンの力には到底かなわない。

次第いに薄れていく意識と、

逃れられない恐怖。

ギンの目は、

何も語らない。

のしかかる圧倒的な強さの前に、

私は

ただの弱い動物だった。

頭に血がまわらなくなり、

気を失いかけた時、


「ギン!やめろ!掟を破る気か!」


その声にギンは手を緩めた。


「らしくないなおまえ。

一体何事だよ!

なに苛立てっんだ!?」


また、知らない人。


私の頭には一気に血が回り

音を立てながら大きく息を吸い込む。


「大丈夫か?

ゆっくり、大きく息を吸うんだ。」


そう言いながら、優しく背中をさすってくれる。


こんなに優しくされるのは、

どれくらいぶりだろう。

そう思ったら、

涙がこぼれた。


その人の姿は、やはり死神。

でも、私には、

神様にしか見えなかった。


「お前、本当にこの子殺す気だったのか?」


「分からない。

ただ、自分が何をしているのか

理解が出来なかった。」


「ギン。あれを見てみろ」

その視線の先には、煙の様な

黒い影が見えた。


「上級か!」

ギンがカマを構えた。


「待て、奴はもういない。

今まであそこに居たんだろうよ。

上級の闇。

アイツらがいた所には、

闇が残る。

そしてまた闇の気配を辿ってやってくる。

言わば、マーキングだな。

お前は上級に操られたって訳だ。

そしてこの子が死んだら、

真っ先に狩りに来るつもりだったんだろうよ。」


「クッソ!どいつもこいつも腹立たしいぜ!

レイラ!お前が来てからろくな事がねー。」

ギンはまた、私を睨んだ。

睨まれてばかりだ。


「レイラちゃん。て言うんだね。

俺は、テラヘルツ。

テラでいいよ。

しかし君は何者だい?

上級に狙われるということは、

君は、死神に狩られる存在ということになる。」


テラのその言葉を聞いて、

ギンはハッとした。


「罪人。」


ギンはそう呟いたあと、

「テラ、気に入らねーが、

これはアレクに報告するべきなのか?」


「いや、恐らくアレクは、

この状況を見物していたろうな。

そして楽しんでる。」


「なるほど、そうかもしれねぇ。」


この2人は、知り合いみたいだ。

ギンがテラさんを信頼している気がする。


テラさんはギンよりも少し背が高くて、服は黒一色。

ギンや、ルチルさんのような

飾りっけは全くない。

特徴的なのはカマだけだ。

綺麗に手入れされ、

柄の部分から刃の部分が一体化している。

美しいシルバーのカマは、

鏡のように人の姿も映している。


でも、不思議なのは

テラさんからは、ギンの様な殺気が感じられない


「ところで何でまたこんな所へ?」

ギンがテラさんに尋ねた。

すると


「ルチルの気配を追ってきたんだ。そうしたら、ギンと

生きた人間の気配も感じて、

驚いたよ。

一体またギンは何をやらかしているのかと思ってな。

近づいて見れば、

あんな掟破りなことをしていたから、慌てたよ。」


「あの、ありがとうございます。

助けて頂いて。」

私がそう言えと、

テラさんはニッコリと微笑む。

その顔に私は

キュンとした。

やっぱりこの人は死神ではなく、

神様じゃないだろうか。











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死神の舞う夜 とさかのらてぴ @taruto501

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