第4話
「ところでアレク。
こいつ、飛べないぞ!
翼とがない。」
「しばらくは、あなたが抱えて飛ぶしかないでしょう。」
「おいおい勘弁してくれよ!
流石にそれじゃ狩りにも行けやしない!」
「少しの間だけですよ。
さすがに翼がないと、
この世界では不便なので、
先程レイラさんが
気を失っている間に、
翼の卵を背中に植え付けておきました。
そのうち卵はかえり、翼が生えるでしょう。」
「いつ生えるんだ?」
「わかりません。」
「なんだよそれ!」
アレクはまるで、
ギンの言葉など気にも止めて
いない風に
「楽しみですね。
レイラさんにはどんな翼が宿るのでしょう。
彼女は死神か、天使か、
それとも悪魔なのか。
人間の何を食らうのか。
ただの人間では無いことは確かです。
生きた人間は、ここでは息もしていられない。
楽しみでなりません。」
アレクは笑みを浮かべながら
そう言うと私を見た。
「レイラさん。
暫くはこの部屋を使って下さい。
お風呂も御手洗も全部揃ってます。
人間が暮らしても快適なはずです。
ギンはこの周辺を常に警戒していて下さい。」
その言葉を聞いてギンはアレクを睨みつけた。
「おい、アレク!
いい加減にしろよ!
なぁーにが快適だ!
こいつが快適でも
俺が快適じゃねーんだよ。
何でそこまでしなきゃならねんだよ!」
ギンはアレクに掴みかかった。
やばい!
喧嘩が始まるのでは?!
私がそう思って怖くなった瞬間!
ギンはその場に倒れた。
「おやおや、こんな所で横になっては行けませんよ。」
そう言うアレクの顔は、
真っ赤になった目を大きく見開いていた。
その目には感情がまるで無く、
殺人兵器のように不気味な
赤黒い光の目。
今にも化け物でも出しそうな
雰囲気だった。
あまりにも一瞬で、
私は何が起こったのか理解が出来なかった。
アレクはギンを
部屋のベッドへと寝かせ、
私を見ると、顔は元に戻り、
軽くため息を吐いた。
「レイラさん。貴方は人を憎んだりした事はあるでしょうか。
記憶を失っている貴方には、
今はまだ思い出せないかもしれませんが・・・
死神とは、生と死の境界を超える存在
この世界を作り出したのは人間の
恐怖心と絶望、そして希望。
現実と幻の境界である世界。
あいつが居なくなればいい。
あいつは地獄へ落ちるべき。
そういった人の強い念。
心が生み出したのが
この世界。
最期の門。
そして、地上では何故か罪として
裁かれてしまった人間の、
あの世での希望と光。
人が人を裁く。
地上の法では裁かれなかった罪が
ここで裁かれるのです。
そして、その反対に、
裁かれなくても良い罪なのに、
地上の法で裁かれてしまった憎しみと無念。
死神という存在も、元はと言えば、
人が作り上げた妄想に過ぎなかったのです。」
「妄想・・・恐れや希望が現実になったのでしょうか・・・」
私はこの世界を理解したくて訊ねた。
「ここが現実に存在する世界なのかは
実は私にも分かりません。
そのうち何も無かったかのように、
スっと消えてしまうかも知れません。」
アレクのその言葉を聞いて
私は質問しておきながら、
ますます意味が分からなくなっていた。
「元はと言えば、地上の裁きなど、人間が決めたルールに過ぎません。
ルールがありながらも
そこには権力が渦巻いています。
人も所詮は弱肉強食なのですよ。
あとはギンに任せます。
この部屋は自由に使ってください。
先程も言ったように、
周囲はギンに見張らせます。
彼はちゃんと守ってくれるはずです。
とりあえず一度失礼しますね。
他の案内人にも、
報告しなくてはなりませんので。
何かあったらいつでも呼んでください。
貴方が強く私を必要とすれば、
私は必ずあなたの元へと駆けつけます。
どうぞ安心してこの世界を満喫して下さい。 では。」
そう言ってアレクは、
白い煙の中へと消えていった。
「なぁーにが他の案内人だよ!」
ビックリして振り返ると、
ギンは、もう目を覚ましていた。
「大丈夫?
ごめんなさい。
私がここへ来たせいで。」
「あいつを信用するなよ!
さっきの話は本当だけどよ。
ただ、あいつが案内人とか呼んでるヤツらは皆、
あいつ一人だ。」
「えっ!?」
「俺たち死神は、人間の魄を食らって生きてる。
しかしアイツは、アレクは、
人間の魄も、魂も、人体も全て食らう。
お前がさっき見た宇宙ゴミも、
恐らくアイツが食ってるんだろうよ。
食らった人間の優れた能力だけ、
しっかりと自分に取り込む。
どういうことか、わかるだろ?」
「私の正体がわかれば・・・」
「そうだ。
お前だって食われるだろうよ。
その能力を取り込むために。」
「・・・」
能力なんてあるのだろうか。
私に優れた能力があれば、
アレクに食べられてしまう。
そんなのは嫌だ!
気持ちが悪い。
そうなる前に逃げなくては!
「おい!無駄なことは考えるなよ。お前はここからはもう、逃げられねぇ。
さっきの見ただろう?
俺たち死神だって、アイツには
手も足も出やしない。
アイツの言うことは絶対なんだよ。
諦めて食われろ。」
「嫌だよ!」私はギンを睨んだ。
するとギンは真面目な顔をした。
「おまえ、名前なんだっけ?」
「レイラ・ホワイト」
「レイラ。
いいか、よく聞け。
おまえに2つだけ言っておく。
1つ目は、ここへいる間は絶対に俺の目の届かない所へはいくな。
2つ目、アレクを絶対に呼ぶな。
分かったな!」
「・・・分かったよ。」
ギンの真剣な目に、
私は渋々答えた。
何故なら、ギンが何となく敵では無い気がしたからだ。
「死神には二種類いる。
人間出身の死神は下級。
人の怨みの闇から産まれた
死神は上級にあたる。
上級の奴らは、言葉を話さない。
この二種類が、何十人何百人いるのか俺にも分からねぇ。
上級の奴らに見つかると、
なかなか厄介なんだよ。
だからお前は、
ちょこまか動くな。」
「・・・うん」
アレクを信じるべきか。
ギンを信じるべきか。
ギンの言うことが本当なら、
私なんか、容易く食われるのだろう。
でも・・・
どうせ食べられるのなら
化け物だろうが人間だろうが、
私の望む素敵な人に食べられた方が
マシだ。
アレクは違う。
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