第3話 死神

「イラ」

・「レイラさん」


誰か呼んでいる。


「レイラ・ホワイト」


「君はもう16だろ!」


「良い事、悪いことの区別もつかないのか?」


「・・・」


「あなたね。ご両親がどれだけ心配しているか分かってるの?」


「世の中にはね。

ご両親が揃っていないご家庭も沢山あるのよ。」


「あなたは幸せなの。」


うるさい・・・


うるさい・・・


うるさい!!!


みんなうるさい!!!


お願いだから、もうやめて・・・


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「おい!」

「おいコラ!」


誰?


ここは


そうか、夢。

私はここで気を失って・・・


「おまえ、誰だ」


薄明かりの中にぼんやりと

見えるその姿はまるで、

物語で見る死神のようだ。


全身真っ黒な服をまとい、

黒く大きな翼が生えている。

手には大きなカマ。

それはまさに

物語に出てくる

死神そのもの。


そうか、私は死んだのか。

だから死神が迎えに来たんだ。


どうにでもしてくれていい。


私はもう、死んだのだから。


望んで死んだのだから。


「おい!さっきから何ブツブツ言ってんだ?

おまえは誰だ、答えろ!」


「?」


「どうしてここに居る?

なんで生命反応があるんだ?

死に損ないの宇宙ゴミか?」


そう言っていろいろと質問を

投げかけながら死神は、

大きくカマを振り上げた。


赤と紫色の綺麗な瞳が光っている。

彼はジッと私を睨みつけてきた。



「ギン!やめなさい。

客人に手荒な真似をしないでください。」


「客人だと?

おいっ、アレク!これは一体どういう事だ!」


「ギン、あなたの所へお連れしようと思っていた所です。

しかし逃げてしまわれて。


彼女は私達の大切な研究対象です。

そして、宇宙ゴミではなく、

ちゃんと私の管轄下である

幸魂の門から入って来られました。

とにかく一度上へと上がりましょう。

ここは、居心地が悪い。」


ギンは躊躇なく私を片手で

小脇に抱え、

大きな翼で勢いよく飛んだ。

アレクには翼は無いものの、

私達と一緒に飛び上がり、

共に先程私が飛び出してきた部屋へと戻った。


「さぁーアレク!

詳しく話してもらおうじゃねーか。」


ギンは部屋に置いてある

フワフワとした真っ白なソファーに腰をおろした。

全身黒ずくめの彼は、

何だか浮いて見えた。


「私達案内人にも、初めての事態でして。

彼女には生命反応がある上に、

貴方もお気づきになったかとは思いますが、

体温まであるのですよ。」


「あー、確かに体温がある。

生命反応も強い。

・・・

さっぱり意味がわからねー。

案内人にも分からねぇー事なら、

俺にはもっと分かんねぇーぞ!

なのに、何で俺の所へ連れてくる気になったんだ?」


「あなたが一番安全だと思ったからですよ。」


「は?」


「他にも候補はいたのですが、

決め手はやはり、貴方が

人間出身であり、そして強い。

という事です。

恐らくこれから、彼女の生命反応に興味を抱いた死神達がやって来るでしょう。

しかし、貴方と一緒にいれば、

近寄ってはこれない。

その荒い性格と

技の強さで、

貴方は嫌われていますからね。

それに・・・

魔物たちの事もありますし。」


「おい。もう少しマシな理由はねーのかよ。

俺はこいつの魔除けのお守りじゃねーぞ!」


「勿論、ギン。貴方を信頼しております。」


「俺は嫌だ!」


「残念ですが、これは命令です。

案内人からの命令は、死神は逆らうことは出来ません。」


「くだらねぇ掟だな。」


「さて、レイラさん。

レイラ・ホワイトさん。」


「?」


「先程あなたは少しだけ記憶を取り戻しました。

ご自身のお名前と、

人間である記憶を、一瞬だけ。


ほんの少しですが、私にも

それを見ることが出来ました。


レイラさん。

これで貴方が人間だと言うことは

証明されました。


私もギンも貴方に生命反応がある以上、手出しをする事は出来ません。


それは掟に反しますから。


しかし、貴方には謎が多すぎます。

ですが先程のように、何かの出来事をきっかけに、

思い出すことが出来るかも知れません。

そこでレイラさんには暫く、

私達の研究対象となっていただきます。


大丈夫。

研究対象と言っても、

傷つけたりはしません。

暫くは、ギンと共に死神の仕事をして、記憶を取り戻す事に専念してください。

レイラさん自身にもそれは必要な事のはずです。」


私は小さく頷いた。


「監視だってよ。」

この、ギンとか言う男の人は、

やっぱり死神なんだ・・・

私が死神を手伝うなんて、

できるのだろうか。

それに、こんな嫌な奴と。


でも、今はアレクに従うしかない。

自分がどうしてここにいるのかも

分からない。

ここから逃げる事すらできないのなら。



「アレクさん。

聞いてもいいですか?

ここは一体どこなのでしょうか?

そして、先程の場所は・・・」


これが現実である以上、

知らなくてはならない事が沢山ある。


「そうですね。

分かりやすく説明すると、

人間が死後、最初に訪れる場所。

そしてその魂を、

私達案内人が導くのです。」


「死人の魂を導く場所」


「そういう事です。」


「では、私はやはり、死んだという事でしょうか」


「死んだからここにいるんじゃねーの?

お前、本当に何も覚えてねーのか。」

ギンは相変わらず私を睨みつける。


「レイラさんは、私の金の足跡を

たどっても、何も思い出さなかったのですよ。」


「そんな事があるのかよ!」


「信じ難いですが、事実です。」


「あの・・・さっきの場所は一体・・・」


私は、

あれが何なのかが知りたくて聞いた。


「あの場所は・・・」

アレクが少し言いたくなさそうにする。


すると

「あそこは宇宙のゴミ捨て場だ。

どうせ見たんだから教えてやれよ。アレク。」

ギンは苛立ちながら言う。

本当に、短気で怖い人だ。


「まぁ、そうですね。

あそこはいわば、

宇宙のゴミステーション。


人間達は、宇宙に夢を抱きます。


地球上で

宇宙旅行が当たり前になりはじめて少したった頃からでしょうか。


宇宙で最期を迎えたい。


それが素敵な事だとでも思っているのでしょう。

宇宙船から飛び出し

自害する者が増え、

その為に宇宙に浮遊する人間の死体が増えたのです。


その死体は勿論綺麗ではありません。

窒息死した後

宇宙のゴミにズタズタにされます。


それを直ぐに見つけ、

死神達が肉体をここへ運んできます。

ちょうどギンは、

その仕事をしていた時に、

レイラさんとはち合わせたのです。


宇宙ゴミとなった人間の魂は残念ながら、死神にも狩る事は間に合わず、

どこか無の世界へ消えてしまいます。」


「ほんと、無駄な仕事なんだよ!

魂も狩れやしねぇ。」


「ギン、暫くは宇宙ゴミ回収は、

止めておいた方が良いでしょう。

レイラさんには刺激が強すぎます。」


「それはラッキーだぜ。

しかしよ。こいつただの死に損ないの人間のガキじゃねーか!

足でまといなんだよ!」


「・・・」


「ギン、

今は足でまといかも知れません。

ですが、面白いものを目撃する事にもなるかも知れませんよ。」


「けっ、まぁ、ただのガキでは無さそうだけどな。」













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