第7話

 雪はその後もずっと降り続けました。あの枯野も、一面雪に覆われておりました。桜の木の枝にも重々しく雪が積もって、まるで白梅が満開に咲いたようです。かわせみはその枝のひとつに急ぎました。雪の白さに呑み込まれかけた鮮やかな緑色がひとつ。めじろでした。かわせみはめじろの側に寄ると、その身体に被さった雪を翼で懸命に除け、そして抱きしめました。震えるめじろを、少しでも温めようとしたのです。しかしかわせみも、この雪が降りしきる中ほとんど休まず戻ってきたので、めじろと同じくらい冷たくなっています。それでもかわせみは抱きしめるのをやめませんでした。もうすぐ消えていくめじろの命の灯火を、じっと見つめて離しませんでした。

 そしてめじろはいつものように、優しく笑いました。


 雪がやみました。長かった冬が終わって、暖かな陽光が雪を溶かしていきます。春が来たのです。虫や動物たちは冬眠を終え、花は芽吹き、鳥は歌います。いのちの胎動を感じながら、満開の桜の木の枝に、かわせみはずっと止まり続けておりました。ずっと、ずっと、ずっと。


 ほら、皆さんも窓の外をご覧なさい。今年もまた、花が咲きます。

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かわせみの花 橘暮四 @hosai

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