月白色

 白変種を手に入れた。


 存在は把握していたが、なんせ家から出ないもので、こうじっくり観察するのは初めて。

 瑰麗かいれいと言うのだろうか。


 信心すら生じる至純な毛玉――物欲しそうな畏怖の双眸そうぼう――なんかこう、人の想像を遥かに超えた花を目撃した感じ。

 

 さて、この物体をどう描こうかしら。


 絵で飯を食ってるのだから本物よりも魅力ある物を創造したいところ。

 まずは具に知る必要がある。

 

 身体は――。

 本当に何もない。


 体温は――。

 冷たくも暖かくもない。


 匂いは――。

 体臭は感じない。


 口内は――。

 人と変わらない。


 涙に唾液。人間風の反応だ。これが無生物なのか。未だに信じらない。

 

 けど概ね理解できた。創作に移ろう。

 

 あっという間もなく既に時刻は夜中。いやア集中ってのは恐ろしいな。

 もう少しやったら寝よう。

 …あと少しだけ。


 気づけば白昼。完成も近い。足りないのは白だけだ。ようやっと完成した…夢?

 

 胡粉こぶん白百合しらゆり白練しろねりどれも違う。

 純白でもない。そうじゃない。創者わたしが求めるのは――。

 

 違う、これでもない。

 なんで! なんで見つからない!!


 筆が死んだ。もう家にはない。もう描けない。筆なければ表現できない。

 なんか心が軽くなった気分だ。筆がないと白変種を純粋な気持ちで見れる。

 

 しかし本当に美しいな…ん?

 

 そうだ。その手があった。なぜ創者は気づかなかった。筆なぞ要らない。

 

 ――

 敬意を表してゆっくり、ゆっくり、焦らず。月の様な白を傷つけずに。少しずつ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

月魄人 たらず様 @mizunohasi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ