未交流惑星への介入

 こうしてたけすぐるは、鎧の戦士ヘビーメタル五十嵐夏海銀河特捜ナツミの……いや、あのタコ星人宇宙人クラをサポートとしてついた。

 彼にいわせれば、クラの情報がこの地球の人にとっては、古すぎるという。


「とにかく、土下座は止めてくれ!」


 卓は嘆願するが、上位の者に礼儀を尽くすことが、クラには理解できなかったようだ。

 そんなこんなで、夏海は次々と宇宙犯罪者を倒し続けた。


 オミナエシ星人のハイショウ。

 ススキ星人のオバナ。

 キキョウ星人のサポニン。

 カワラ星人のナデシコ。

 キク星人のフジバカマ。

 双子マメ星人のクズとハギ。


 次々と襲い来る宇宙犯罪者。

 そして、この日は地球でのクリスマスというお祭りがあるという。しかし、お祭りだといっても、彼女に休みはない。


「なんだ、あれはッ!」


 卓が見上げたのは、今までの宇宙人とは全く違う形状の生命体であった。

 巨大である。

 今までの宇宙犯罪者は、大きくても双子マメ星人のゾウほどの大きさであった。

 それがデカい。デカすぎる。そのあたりのビルを優に超える40メートルはあるかだろうか。


『こんなの聞いていませんわ!』

「何が聞いていないっていうんだ!」


 珍しくクラが動揺していたが、夏海は淡々と、


「変身許可をお願いします!」

『そッ、そうですね……五十嵐夏海。変身を許可します!』


 夏海が右手を……その手には、髪に付けていたあの星形のヘアピンを高く掲げた。


 ここで彼女の変身プロセスを説明しよう!

 クラの許可を受け、五十嵐夏海は変身アイテムである星形のヘアピンを掲げる。

 すると、衛星軌道上に小惑星に擬態した宇宙船ネビュルーズ22に、変身許可コマンドが転送されるのだ。

 宇宙船に搭載されたコンピュータがそれを受信。特殊軽合金テクタイトニウム製のメタルプロテクターが粒子状に分解されて、瞬間的に電送されてくる。電送されたスーツは夏海の体に吹き付けられるように再度形成していき、爆装が完了するのだ。


「行きます!」


 暴れている巨大な宇宙犯罪者……いや、この大きさでは宇宙怪獣といっていいだろう。

 ナツミは幾人ものを倒したエネルギーソードを振りかざし、突進していた。しかし、宇宙怪獣はあまりにも巨大であり、ナツミは非力であった。

 相手の皮膚を切り裂くこともできず、簡単に吹き飛ばされてしまったのだ。

 瓦礫の山に叩きつけられるナツミ。


「夏海ちゃん!?」

『こんなの聞いていませんわ!』

「どういうことだ! タコ星人!!」

『離しなさい! 原生生物!! 何度も言うように、わたくしに触らないで!』


 卓がクラを捕まえて問い詰める。

 その時だった。陰が頭上を被った。


「こッ、今度はなんだ!?」


 見上げた卓の視線に、銀色の玉が振ってきたのだ。

 金属の光沢を帯びた巨大な球が、落ちてくる。


「つッ、潰される!?」


 卓が危惧した事にはならなかった。

 その金属の球は、地上に落ちる瞬間、まるで液体のようにふたりを飲み込んだ。


 ※※※


 ――問おう。原生生物よ。


 と、突然、卓の頭の中に男性の声が響く。目を開けて見ると、周りは銀色の世界。前に宇宙船に乗せられた時とは違っていた。

 透明な膜に被われ、フワフワとその銀色の世界を浮いているのだ。


 ――ここは地球であっているか?


 再び頭の中に声が響く。


「そうだ。それがどうした!!」


 場所も、自分の置かれた状況もわからない。やけくそになって彼は叫んだ。

 すると、頭上に突如、赤い光が現れたではないか。それも2つ――


「めッ、目玉!?」


 そうだ。巨大な目玉が2つ。それをよく観察すれば鼻があり口も……巨大な顔が見下ろしていたのだ。その大きさは、地上で今、暴れている宇宙怪獣以上はあるだろうか。


 ――では、このポリプ星人は、ゲー・クラだな? 映像作家の……


(映像作家? そういえば、あのタコ星人は?)


 探してみると、近くを同じようにフワフワと浮いている。だが、様子が変だ。2本の触手をすりあわせて、


『こッ、これは銀の星のお方。納期はちゃんと守っています。が――』

「納期ってなんだよ。タコ星人!」

『うるさい!』


 ――知らないのか? 毎週、へびづかい曜日に配信する『銀河特捜ナツミ』を。


(放送? 毎週?)


 卓は混乱をした。この銀の巨人の言っていることが、理解できないでいたのだ。


 ――ゲー・クラ。またしても、未交流惑星を騙してドラマを取っているのか?


『リアリティもあって、視聴数はよろしいかと』


(視聴数? 騙す? つまり、今まで夏海ちゃんが必死で戦っていたのは、お芝居であったということか!)


 当然、怒りがこみ上げてきた。だが、フワフワ浮いた膜は破ることもできずに、そもそもその場から動くことすらできない。


 ――厄介なものを敵に回してくれたものだ。植物界の星人をてき役にするなどと。


『もうこのシリーズ限界なんです。敵役を考えるのも!』


「どういうつもりだ! 宇宙人が勝手に地球にやってきて、ドラマの撮影だ!? そんなことで、人の人生狂わせる気なのか!」

『黙りなさい。原生生物!』


 ――いや、もっともな意見だ。未交流惑星で勝手なことをしてもらっては、秩序が乱れる。今回の配信で、植物界の星人からも苦情がきている。彼らは、ウソをつくことを知らない。当然、『芝居』という概念もない。配信が本物であると信じて、この星に生物兵器を送り込んでしまった。


「じゃあ、どうしてくれるんだ!」


 ――簡単な話だよ。力が欲しいか?


「なんだと? お前らだけで片付けられないのか?」


 ――残念ながら、わたしはこの星に適応できない。そのためには、地球の原生生物の姿が必要となる。つまり、君と融合する。


「融合だって!?」


 卓は混乱をしていた。だが、それを見据えたかのように、巨人は外の風景を見せる。

 破壊される街、逃げ惑う市民、傷つくナツミ――


 ――力が欲しいか?


「ああ、欲しい! 夏海ちゃんを助けるためにも!」


 ――キミの勇気を受け取った。共に戦おう!



 そして、銀の巨人が降臨した――



〈了〉

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MHJK 大月クマ @smurakam1978

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