バライアの街

「結構歩いたけど、まだ見えないね」

「多分、あと少しだと思う」

 

この辺りでも有数の大国だから、遠くからでも見ることができるはずだけれど、なかなかそれらしい建造物は見られなかった。他の旅人もバライアを目印にして進路を考えるという話は聞いたことがある。話では、そろそろ到着してもおかしくないはず。二人の疲労は少しずつ蓄積していって、会話も弾むことなく歩いていると、唐突に、広野に大きな塀が姿を現した。ついにバライアの街に到着した。遠くから見ていても、もはやその規模は街というより国だった。フランは大はしゃぎして、目の前を走っていった。城下町が近くなると、道中では全く会うことがなかった旅人達が何人も出ていく様子が見えた。気温は比較的暖かい気候なので、軽い腰巻きや布を着用している商売人が多数売り込みをしている。城下町に入ってまず心を惹かれたのが、大きな宿屋だった。慣れたものではあるけれど、数日は水を浴びていなかったので、柔らかいベッドや透き通った安全な湯が恋しい。こんなに大きな宿があるならば、今日は多少奮発してもここに泊まろう、そう思った。

 

「あ、武器売ってるよ!アリアのレイピアも古くなってきたから、新しいのを買ったら?」

「嬢ちゃん、興味あるかい?うちのは一流の鍛冶屋に任せてあるから、品質は保証するぜ。元々剣一筋だったんだが、最近は弓なんかも扱ってるんだ。せっかくここまで来たんだから、買っていっておくれよ」

 

鋼鉄に包まれた重厚な弓が置かれていた。日光を反射して光り輝き、人が使ったような跡は見られない。確かに、弓ならば安全に攻撃できるし、戦略の幅も広がるだろう。毒草なんかをすり潰して矢の先に塗れば、攻撃の手段として有効かもしれない。

 

「弓は、フランが持つのはどうだろうか」

「お、いいねいいね。やっぱり美人さんは分かってる。あんたも、その剣一本じゃ心細いだろう。どうだい、うちの自慢の子達を見ていっておくれよ」

 

私が振り回すには骨が折れそうな大剣や、銀の刃が美しい片手剣やナイフなど、武器屋なだけあって種類も豊富だった。レイピアは色々な理由で手放すつもりはない。しかし、いざという時のサブウェポンとして何か買っておくのも良いかもしれない。目の前の武器達とにらめっこして熟考する私をフランが不思議そうに覗き込む。武器の強化は命を守るための最善策なのだから、ここで多少お金を使っても問題ないはずだ。そうと決まれば、まずはフランのために何か買わなければいけない。

 

「おじさん、この弓持ってみてもいい?」

 

店主はもちろんと大げさな反応を示した。喜びながらフランが持ち上げてみると、よろけてしまった。見た目通り重たく、フランが扱うには少し苦しそうだった。弦を引くのもままならない。

 

「フラン、大丈夫か」

「ううん、気にしないで。あたし頑張って使いこなせるようにするから!」

「無理してはダメだ。店主さん、もう少し軽く小さい弓があれば良いのだが」

 

弓はあまり人気が無いのか、これを除いて他には見当たらなかった。店主もしばらく頭を抱えていたが、思い出したように提案をしてきた。

 

「そうだ、もし買い取ってくれるって約束するなら、鍛冶屋に頼んでみるよ。その分高くつくけど、お嬢ちゃんでも十分扱えて、火力も出る良い品を提供してみせる。こんな美人さんに頼まれたら、男なら断れねえよ」

 

粋な計らいで、フランのために特製の弓を叩いてもらうことになった。数日後に取りに来てほしいと頼まれた。形やその他の情報はできてからのお楽しみと言われてしまったけれど、フランはとにかく嬉しそうだった。

 

「これで、あたしもアリアを守れる!いっぱい練習して百発百中だよ!」

「弓の扱い方を教えないといけないな」

 

なんだかプレゼントを買ってあげられたような気がして、私も気分が高揚していた。この子の笑顔を見ていると、所持金が少しずつ危なくなっていることも気にならなくなる。そんなところに、危ない誘いがあった。

 

「隣に防具や盾なんかも売ってるから、よかったら見てってくれよ」

 

店主の言葉とフランに流されるまま、今度は防具を見ることになってしまった。私は重装備が暑苦しくて好きではないから、動きやすい軽装で、新しいのを買うつもりはないのに。防具屋の防具は、息苦しい。品物を見るだけに留めて、色々目移りするフランを引っ張りながら、旅に必要な物をいくつか購入した。

 

「あそこ、人が集まってるよ。どうしたんだろう」

 

町の中央、目立つ場所に立つ大きな看板。数人がまじまじと見つめている。彼らの格好を見てみても、おそらくバライアの民ではなかった。看板には、ここに来た目的である、大会について記載されていた。

 

『腕に自信のある者求む。バライアの由緒ある大会に参加されたし』

 

周りに話を聞いてみると、ちょうど明後日、力自慢が集う大会が開催されるようだった。この先の巨大な城の国王に直接参加の申請をする必要があるとのことだった。

 

「セバスさんが話してたのって、これのことだよね。アリア、参加しようよ!」

「もちろんだ」

「アリアの剣、綺麗に拭いておくね。アリアのかっこいい姿、楽しみ!」

 

今日のフランはいつになく上機嫌で、今度は彼女が私を引っ張る形で、城へと向かった。

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ビルドイン・マイカントリー! ゆうゆう @iyuiyu12

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