次の目的

「そうは言ったけど、何からすれば良いのかな」

 

フランが悩ましそうにしている。けれど楽しそうだった。人を集める、家を建てる、やらなければいけないことは山積みだ。そもそも私達がこうして日光を浴びながら思案しているのは、一切の施設が無いからで、早急になんとかしなければいけなかった。

 

「私は、近くの村でしばらく厄介になろうと思います。お二人の邪魔になるのはいけないので……」

「せっかく意気込んでたのにごめんね、セバスさん。環境が整ったらすぐ迎えに行くから!」

「その、一つ思ったのですが、アイリスさん程の強さの方なら、この村を南に行ったところにある、バライアの国に行ってみてはどうでしょうか。大きな国で、そこでは毎年力自慢が争い優劣を競うコロシアムなる大会があるそうです」

 

バライアの国は私も聞いたことがあったが、そこで大会が行われていることは初耳だった。

 

「なんでも、優勝した者にはなんでも望みの報酬が与えられるとか」

「それなら行ってみようよ!アリアの強さ、バライア中に知らしめてやろう!」

 

フランが勝手に話を進めている。しかし何をするにも資金は必要で、行くあても無かったのでひとまず向かってみることにした。今は何も無いこの村とは、しばらくのお別れになる。

 

「セバスさん、近くの村まで、送っていきますよ!」

 

三人の小さな影は、ゆっくり歩き始めた。

 

 

セバスを送り届けて、バライアへの道中。すっかり日が暮れてしまったので、安全な場所で野宿することにした。焚き火をつけて空を見上げると、白月を囲むように、星々が光り輝いている。日中は呆れる位の晴天だったから、そのせいかもしれない。

 

「やっとで目標ができたね。あたし、楽しみ」

「私は、まだ不安だ」

「でも、やることができたらあとは頑張るだけだよね!何も分からない状態で旅をするより、今の方が絶対に良いもん」

 

フランの言うことも最もだった。ただ魔物を絶滅させると意気込み、暗夜の下で手探りで進み続けていた今までと比べると、大きな一歩だ。その点では、心の奥のつまらない不安が解消されたのはよかった。

 

「またそうやって難しい顔してる。凛々しい顔付きだからって、もっと朗らかにしなきゃダメだよ?」

 

にっと笑ってフランは明るく振る舞っていた。私の反応が薄かったので拗ねて向こうを向いてしまった。いくら不安が残っているからといって、せっかく励ましてくれている彼女に対して冷たい態度だったと思う。わざとらしく顔を膨らませるフランに近づいて、謝罪した。罠に陥った獲物を見るような得意げな顔で、彼女は続けた。

 

「ぎゅーってしてくれたら、許してあげる」

「ほ、本当にしないといけないのか」

「あたし、大好きなアリアに冷たくされて傷ついたの。この傷は私の魔法じゃ癒せなくて、アリアにしか癒せないの」

 

羞恥で頭が真っ白になってしまった私はとにかく何とかしようと、顔を見られないように後ろから優しくフランを抱きしめた。少し冷える夜に、彼女の体温が温かかった。耳は赤くなっていて、吐息まではっきりと聞こえた。

 

「えへへ、アリア大好き……。ずっと一緒だからね」

 

安心し切ったようで、彼女はそのまま眠りについてしまった。子どもらしい姿がこの上なく愛しくて、私もしばらく彼女を離さなかった。安眠の寝息が聞こえ始めた頃、フランを起こさないようにゆっくりと床に就かせて、私も就寝の準備を整えた。この調子なら、明日の昼頃にはバライアに到着できるかもしれない。大国ということだから、色々旅に必要な物を買い揃えなければ、そんなことを考えていると、私の意識も自然と落ちていった。

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