第4話 vsいじめっこ

「よそ者とばっかり遊んでんじゃねーよ」


 いじめっこが来たぜ。


 いや、いじめって犯罪でしょ? どうして『まあまあ子供同士のことですから……』とかいう扱いになるんだ? わけがわからないよ。

 というか『その扱い』さえまだマシな方で、『仲がいいわね』みたいな事実歪曲までされるケースもあるからな。やっぱ田舎ってクソだわ。早く大人になって都会に行きてぇなー。


 絶頂しながら五年間生きてきた。


 三歳の時から始まったマリアとの人間関係は俺に多大なストレスと無駄時間をもたらしたが、『じゃあ、マリア以外の連中と付き合いを始めたらどうなるのか?』と考えた結果、マリアだけと遊んでいれば親も文句を言わないこの状況を受け入れることにしたのだった。


 そこから二年が経ち俺とマリアはすっかり大親友みたいな扱いになり、三日に一度の頻度でおままごとをし、おままごとをしない日にはおうちでお勉強をしていた。

 たまに山野を駆けることも許されるが、マリアはそういうアウトドアな遊びが嫌いのようで、家で空想をふくらませるのが好きらしかった。お人形遊びとか超好き。都会の引きこもりがよ。都会ってクソだわ。


 そのマリアとお人形で遊んでいたところ、そこが野外だったためついにいじめっこの一団に絡まれることになってしまったのだ。


 それは村の六歳から四歳ぐらいのガキどもを後ろにぞろぞろ引き連れた大柄なガキであり、俺より三つも歳上の八歳だというのに慈しみの心というものがその瞳にはいっさい宿っていなかった。


 さびしく二人きりで遊ぶ穏やかな五歳児しかいない空間になだれ込んできたクソガキどもは、完全に『新しいおもちゃ』を見つめる目でこっちを品定めしており、頭の中にはたぶん『こいつらはどうすればいい声で鳴くかな』ということしかない。


 そしてその目がマリアの手に持った人形をとらえたのがわかった。


 マリアはその見事な布人形(かなり縫製の細かいピンクのドレスを着ているのでたぶん高級品。へたに触って壊したらイヤなので俺は触ることを避けているし、なんなら外に持ち出すのも止めた)を背中にかばう。


 しかし悪ガキの前でそんな動作は『見つけたァ……』とされるだけなので、案の定ガキ大将は「その人形」と言葉を発した。


 そこで俺が淫ヒールするってワケ。


「その人形オレに見せへぁっほっおほおおおお!?」


 もちろんヒールなのでケガもしていない相手には効果はなく、『経験という水』はたまらない。

 だが、俺のヒールは超気持ちいいんだ。


 ガキ大将は八歳の男の子が浮かべてはいけない表情をしながらビクビク震えつつ変な声を出し、おしっこを漏らした。


 こういう先手必勝戦術は実のところ人生二回目以降毎回やっており、その時々に育てていた枝葉ツリーによって叩きつけるものは変わる。

 炎属性の時とかちょっと服を焦がすだけのつもりがかなり派手に燃えてしまって大問題に発展したのでヤバかったが、今回はヒールだから大した問題にはならないと思う。回復系魔術師でよかったぁ。


 ガキ大将は漏らしながら倒れてしまった。

 地面を痙攣しつつのたうち回るそいつの胸あたりを踏みつけつつ、ここで上下関係をはっきりさせておくことにする。

 上下の格付けをすませないといつまでもダラダラ絡まれるからな。『手を出しちゃいけない相手』アピールはお互いのためでもあるんだ。


 オラッ! 淫ヒール(小)ッ!


「おほへっ、はひぃぃぃぃ!?」


「子分たちの前でおしっこ漏らすのはどんな気分だぁ? また僕たちに絡んでみろ。次はもっと…………ひどいことになるぞ」

「おひっ、ひぃいぃぃん!?」

「わかったら二度と僕とマリアに手を出すなよ」


 二度ととか言っちゃったけどまだ未遂だったわ。

 まあいいか。ケガもさせてないし……


「マリア、教育に悪いやつは放っておいておうちで遊ぼう」

「あの子どうしたの?」

「前にマリアが枝で手を引っ掻いた時のやつをやったんだよ」


 マリアはそう言われると顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 言うて三歳のころの話だし、そのぐらいの年代が漏らすのはまあまあ普通のことなのでそこまで恥ずかしがる必要もない気はするが、心はレディということなのだろうか。


 恥ずかしがるマリアがお人形を両腕で抱いてさっさと走り去ってしまうので、俺だけガキ大将を踏んだまま残されてしまった。


 オスガキを踏みつける趣味はない(メスガキを踏む趣味もない)ので足をどかしてやれば、ガキ大将は惚けた顔でビクビク震えながらヨダレをこぼしてどこか遠くを見る顔になっていた。


 ……他に二、三人ぐらいわからせておくか?


 視線を巡らせたら他のガキどもはさっと顔を背けてしまった。やるまでもなく格付けは完了していたらしい。

 なら最後に一言添えるだけでいいかな。


「手を出すなよ。こうなりたくなければ」


 ガキどもがうなずいたのを確認してから、俺もマリアのあとを追った。

 今日はおうちでお人形遊びの日になりそうだ。前に『じゃあそのお人形が悪い魔王の魂に体を乗っ取られて触れるものすべて傷つける設定で……』って提案したら不思議なもの見る目を向けられたからな……いるんだよ実際に、なんか急に乗っ取ってくるヤツは……


 どうやって自然にケガしようか方法を考えながらマリアの家に行ったが、けっきょくマリアが納得する設定を思いつくことはできず、その日は無駄な時間を過ごすことになってしまった。

 脈絡なく自傷すると親御さんに止められるので難しいんだよな。



 翌日。


「お、お前、生意気なんだよっ!」


 わからせが足りなかったのかガキ大将がまた絡んできた。

 昨日の今日でこの感じ? さすがに俺も困惑してしまう。


「お兄さん、僕より三歳も歳上なのに学習能力ないんですかあ? 昨日の今日でまた絡んでくるなんてドン引きなんですけどお」

「う、うるせぇな! イヤなら……き、昨日の、やつ、また、やってみればいいだろ?」

「もしかしてわざわざやられに来たんですか? うわあ、いい趣味してますねえ……」

「趣味じゃねぇよ! な、殴るぞ! 殴ろうとしてるぞ!」

「ええ、いきなり暴力ぅ? いきなり脅してくるとか雑魚ムーブやめてくれません? しかもお仲間も今日はいないですねぇ? どこ行っちゃったのかなあ。みんな頭の悪いリーダーの情けない姿を見て幻滅しちゃったんでしょうか?」

「おう、お、おぉ……こいつっ……!」

「わあ、こわーい。ここまで言われても一つも言い返せないで殴ろうとするなんて、脳みそスカスカ。記憶力皆無。暴力以外に何もない。暴力でも負ける。ザーコザーコ」

「こいつめっ! こいつめっ……!」


 ここまで口で言ってもわからねぇなら仕方ないな。

 ちょうど新技も試したかったしやってやるか。


 オラッ! 継続淫ヒール(小)ッ!


「おほおああああああ!?」

「立場をわからせてあげますよお兄さん」


 二度と俺たちに手出しできねぇようになぁ……!


 しかしその翌日もまたその翌日も絡んでくるので、俺たちは周囲からなぜか『三人でよく遊んでて仲がいいのね』の扱いを受けてしまう。

 仲良しは殴ろうとしたりおもらしさせたりしないと思います。こんなオシッコ臭い歳上の脳みそスカスカ暴力以外に取り柄がないのに暴力も取り柄じゃなくなっちゃった無能お兄さんとか友達じゃねーよ。節穴どもめ。


 でも親世代は『子供同士は深刻に仲が悪くなることはないし、一緒にいるならそれは仲良く遊んでるんだ』っていう幻想から目覚める気がないらしく、俺たちは『大親友』にされてしまった。


 はあ。早く大人になりてぇなあ。

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