第24話 場当たりな、その場限りの積み重ねの先に 2

 大宮氏の弁を受け、今度は大槻氏が語る。


 いやあ大宮さん、確かにあの米河さんの弁は、厳しいです。甥であるあの少年はそこまで激しくはないようですけど、それが何です、よつ葉園が絡んだが最後、彼もまた、思うところがあるのだと思われますけど、厳しい言い方になってしまうようでしてねぇ。

 尾沢君には、そういう子もきちんと導けるだけの力をつけて、実践してほしいとかねて思ってはいるのですが、ただ任せてしまえば楽ですが、それではいざとなって取り返しのつかない事態を招きかねない。かといって、私が出張っておぜん立てをしてしまえば、その子にとってはいい形になれたとしても、尾沢君の力が付くわけじゃないし、さあ、どうしたものかと、そこのバランスが、悩ましいです。

 もちろん、尾沢君はよくやってくれています。

 ですが、これまでのこの施設の、いやいや、日本の児童福祉のお粗末なと言いますか、生ぬるい湯に浸ってそれで何とかやり過ごしていこうとしている節さえ、私には見えて、仕方ない。


 私自身は決して、単に「下位代行」をして自らの身を守ろうなどと思っているわけではありません。

 ですが、なんでもかんでも出張れば、後進も育ちませんし、何より、今いる子どもたちにとっても、いいように向かうことがいくらかあったとしても、その場限りで終わってしまいかねない、そんな危惧もありましてね。

 その部分を、今の男性の児童指導員3名から、あるいはかの米河少年やその友人周りから、いずれ「保身に走っていた」と評価されるかもしれません。

 今現在、さらに後世、そのような評価をされたとしても、それはそれです。


 私としては、今この地にいるすべての人たち、これは児童らだけでなく、ここに生活の糧を求めて出向いてきている職員各位も含めて、だれもがこの地にいてなにがしかの糧を得てくれるようにと思って、日々、業務に励んでいます。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 今度は、吉村静香保母が話す。


 先ほど大槻園長が言われたように、私も、ここに今いる子どもたちがこの地で経験したことを糧としてもらえるように、日々、業務に励んでいます。

 ただいかんせん、若い保母よりは年齢も上で経験も重ねておりますから、自分のことだけ何とかですまないことは、何より自分自身がよくわかっております。

 幸か不幸か、私は年長の男女児童、とりわけ男子児童の担当を直接持ったことはありませんでしたし、今もしておりません。

 しかしながら、保育の場から、年長の男の子らを見ておりまして、確かに、津島町にいたころに比べても全体としてはよい雰囲気で、いい形で生活が送れるようになってきたなとは、感じています。

 若い保母さんたちの中には、そういう子らとの対応がうまい人もおりますね。以前も、いなくはなかったですよ。結婚して退職されましたが、坂上さんという保母さんがおりまして、この方、米河清治君が小学1年生の時に担当されましたけど、彼女は、その前に年長の男子児童の担当もされていました。

 大槻さんともしっかりやりあって、それほど年の離れていない子らを、うまく導いてくださっていました。

 今年は、以前の坂上さん並にうまくやっていける保母さんも入られまして、特にその寮の中学生とは、うまくやっていけつつあるようで何よりです。


 確かに、このよつ葉園のそのあたりの対応は、格段に良くなりつつあります。

 ですが、それを手放しで喜べない要素も、ないわけではありません。

 大槻園長とも、そのことでは良く意見交換しておりますけど、まだまだ、道半ばどころか、ようやくその道に乗って歩き始めることができたような、そんなところですね。

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