第13話 青春ドラマ。私も、嫌いじゃないよ。

 玉露の二番煎じは、一番目と比べても明らかに味は異なる。

 しかし、それでもやはり、高級茶の味わいがあるもの。

 大槻氏が聞き及んだ話では、三番煎じまではうまく飲めるとのこと。

 大宮氏は、二番煎じの茶を飲みながら、答える。


 ああ、あの手のドラマ。私も、見たよ、何度か。

 嫁さんがあの手のドラマ、好きでね。

 飛び出せ青春は確か、日曜日の午後8時からの1時間ものだったろ。

 その時間って、まず、仕事なんてしていないよ。

 で、まあ、うちの子も小さかったけど、寝かしつけるほどの時間でもないわってことで、息子の太郎と奥さんと3人で、ぼくはビールでも飲みながら、観ていたよ。

 ああいう世界、ぼくは嫌いじゃ決して、ないよ。

 それを言われるなら、むしろ好きだと言ってもいい。


 だけど大槻君、どうだろう?

 あのような「青春学園もの」のようなドラマの世界と同じような生活ができる若者ばかりか?

 あれがきれいごとだなとという気はないが、そんなゆとりもヒマもない人生を送る若者など、私の同世代にはいくらもいたし、今だっているはずだよ。

 仮に、高校に行っていたとしても、それどころじゃない学生さんはいくらもいる。

 そういう人に対して、あんな理想像を見せるのは構わんが、じゃあ、君も今日からは仲間だと称して、足を引っ張る、ましてや、それを水晶さえするかのような言動が許されるかってことになったら、どうだよ?

 そんなもの、許されるわけもなかろう。

 それを何だ、「ふれあい」だのなんだのというのは、詭弁というものじゃないか。


 ・・・ ・・・ ・・・・・・・


 大宮氏は、そこまで言って湯呑の茶を飲み干した。

 大槻氏は自分の湯呑を飲み干して、先に先輩に、そして自分に、残りのお茶を湯呑にそれぞれ入れて、急須を空にして、応接室の内線電話で安田事務員を呼んだ。

 程なく、彼女は急須だけを下げ、給湯室に去った。


・・・ ・・・ ・・・・・・・・


 そうですか・・・。

 うちに、Z君という入所児童がおりまして、彼が今まさに、その、大検という制度を使って大学に行こうとしております。

 大宮さんの息子さん、太郎君は中学時代に大病を患って、高校どころじゃない状態になられたとき、その制度をお使いになってO大学に合格されていますよね。


 最初、私自身、そんな制度があることを、正直、知りませんでした。

 知らないままに、彼が高校入試に不合格になったとき、そんな制度はないとかあってもも難しいとか、いい加減な言動を感情的にやってしまったことは、正直、ごめんで済む話ではありません。

 彼からは、私も含めて昨年の担当職員らを、直接にこそ言いませんが無能とみなしているのが、嫌と言うほど、わかりました。


 困ったことに、今の担当の尾沢君、彼はその、自分の意見を彼に述べていると言われればそれはそうかもしれないが、大検という制度を使って大学に行くことよりも、高校生活を楽しんで云々できないのは寂しいの何だのと、そんなことをZに言っておりますが、当然、聞く耳など、彼は持っていませんね。

 くだらん郷愁論という言葉は、そのZ君が尾沢君の日頃の言動に対して、かねて述べている言葉なのです。


 その尾沢が高校生になる前後に流行ったのが、あの手の青春ドラマですわな。

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