第12話 良くも悪くも、青春ドラマの主人公

「あ、大宮さん、少しお待ちください。折角です。玉露の味を、もっと楽しもうではありませんか」

 何を言い出すのか、この御仁はと思いつつも、大宮氏は、平静を装いつつ答える。

「ほう、玉露を楽しむと来られたか。受けて、立とうではないですか」

「承知いたしました。しばし、お待ちを」

「じゃあ、その間ちょっと、トイレをお借りしたい」

「あ、このドアを出て左手の突き当りです」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 それぞれ所用を済ませ、数分後。

 安田事務員が、カップの回収を兼ねて、お茶を持ってきた。

 これが、玉露の二番煎じだという。

「それでは、どうぞ。あと、三番煎じまで、ぜひ、お楽しみください」

 今度は、ふた無しの湯呑とともに、急須に入れた玉露茶が運び込まれた。

 そして、二つの湯呑に、二番煎じの玉露茶を目の前で注ぐ。

「お茶がなくなりましたら、どうぞ、お申し付けください」

 喫茶店の看板ウェイトレス並みの接客をして、彼女は去っていった。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


「なんだか、一番煎じの時の下にも置かなさ加減がないから、気楽でいいよ」

「慇懃無礼が過ぎましたようでしたら、どうかご容赦ください」

「そこまでは申していないよ。さすが、大槻君だな」

「ありがとうございます」


 何とも言えない会話の後、大槻和男園長は、学生時代からお世話になっている年長の先輩相手に、部下の愚痴とも課題ともつかぬことを話し始めた。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 先程申し上げた尾沢康男君という人物ですが、前回御手紙で御報告いたしました通りでして、とにもかくも、真面目で善良な人物です。

 大宮さん、御存知ですかね。息子さんがまだ幼い頃ですから、そういう番組に意識が行かれていない時期だとは思いますが、ほら、高校の青春ドラマ、今から15年ほど前にあったじゃないですか。

 森田健作が主演している、「おれは男だ」。

 あの主人公をイメージしていただくと、その尾沢のイメージをとらえていただけるのではないかと思います。

 ええ、彼は本当に、まっすぐで、理想に向かって邁進する人物なのです。

 ですから、子どもたちには何を求めるか。

 こちらはそうですね、「飛び出せ青春」なんて番組、ありましたよね。

 あの番組の高校生たちのような、良くも悪くも、そういう高校生像と言いますか、そういう「高校生らしさ」みたいなものとの親和性は、ものすごく高いです。

 その二つの番組の雰囲気と傾向をイメージしていただければ、もう、彼のイメージをとらえていただけましょうね。

 私も、そういうドラマ、あまり見ていませんけど、嫌いじゃないですよ。

 大宮さんは、どうです? あの手のドラマ。

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