第7話 子どもよりもむしろ、大人相手のお仕事を

「糧になったかと言われますと、確かになっていたのではないかと、少なくとも私は思っております。それは、滋賀県の須賀学園で現在園長代理を務められている高尾直澄さんも御指摘でしたが、保育のプロとはこういうものかと、随分気付かされたところ大であったとのことです。私も、その点については同感です」


 大槻園長は、この職場の大先輩でもある山上保母の正の側面から語り始めた。


 保育という現場に限定すれば、彼女の存在は、余人もって代えがたいものがありますね。あの教育紙芝居、大宮さんも小学生の頃から森川や古京ら前任の園長各位より見せられていらっしゃいますから御存じと思いますが、あれはもうプロの領域です。

 本園を退職されて間もなく、山上さんは津島町にあった頃の知合いから声を掛けられて、月に何度かのペースですけど、公民館で地域の人たちに紙芝居を披露されるようになったとお聞きしております。

 ほら、私たちが子どもの頃に見ていた、紙芝居のおじさんの黄金バットなんかのような楽しさはないですけど、あの方の語り部よろしく昔ばなしを丁寧につむいでいくあの紙芝居、何だかんだで、子どもよりもむしろ、年配の方々が昔を懐かしがって、公民館に集って来られて、度々盛況であると伺っています。


 私はこういう仕事をしておりますので、一度も伺ったことはありませんけれど、あの方らしいお仕事ではないかと。

 それが生きがいになっておられるようですから、いやはや、それは慶賀に堪えぬことですね。

 ときには、刑務所なんかの慰問に行かれることもおありとのことでして、先日御主人にお会いしたときには、その慰問に行った先で、受刑者ばかりか刑務官までもが感動して、中には泣いている人もいたと伺っております。


 山上さんは確かに、米河清治君のような少年は言うに及ばず、うちの児童の中高生の男子や、女子もそうですけど、そういう子らを指導するよりもむしろ、そういう場所に出向かれて、子どもよりもむしろ、大人相手に、そういう形でお仕事をされたほうが、良いのではないでしょうかね。

 これは、私の勝手な見立てかもしれませんが。


 大槻氏の弁に、大宮氏も幾分納得するところがあった模様。


 そうか。なるほど。

 山上さんは子どもらの相手よりむしろ、大人相手の仕事をしたほうがいいってことか。その点、あの紙芝居というのは、山上「先生」を活かすうえで大きな役割を果たしうるというわけだな。

 これは、ある意味逆説的な見立てかもしれないけどね。

 そうそう、大槻君に以前、ぼくが言ったでしょ、君は逆説的に養護施設の職員に向くのではないか、って。それと同じ図式だ。

 山上さんの場合、君とはいささか逆の方向性になったわけだが、それはなるほど、あたっているだろうね。

 今どきの子どもらを相手にするより、今は大人かもしれないけど、昔の子どもを相手にする。そういう「保母」の仕事もあっていいというか、今後、形を変えてもっと必要性が増してくるかもしれないぞ。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


トントントン

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