大槻和男園長との再会

第2話 大槻君、このお茶だが・・・

 大宮氏は、受付に来訪の意を告げた。

 古村武志事務員が直ちに内線電話で園長室に来客がある旨伝える。

 電話は、すぐに終わった。

 古村事務長は、目の前の安田知世事務員に給湯室へ行くよう指示する。

 程なく、大槻園長が園長室から出てきた。


「大宮さん、御無沙汰いたしております。では、どうぞ」

 大槻園長自ら来客を案内しに来ることはそうそうないが、今回は飛び出すように園長室から出てきた。


 なんか、前回とはえらい違いだな・・・。


 大宮氏はいささか不思議に思いながらも、案内されるままに応接室に入った。


「大槻君、3年前とはなんか雰囲気が変わっていないか?」

「そうですか? 何か、問題点を感じられましたか? もしそうであれば、ぜひご指摘ください。もうとにかく、一つ一つ問題点をしらみつぶしに解決していかないと、とてもじゃないが間に合いません。これは、私がしないといけないことですから。間違えても、下位代行させるわけには参りません」


 しかしなぜ、彼はここまで張り切っているのだろうか?

 いささか「テンパって」いるようにさえ感じる彼の弁。

 その背景にあるのは、どんな「問題点」なのだろうか?


「何というか、3年前に比べて、大槻君、やたら張り切っているように思えるのは、気のせいではないよな?」

「ええ。これはパフォーマンスなんかじゃないです」

「君の手紙による報告を読んでおっても、それがひしひしと感じるだけに、ぼくはむしろ、いささかならぬ不安も同居しているように思えてならない。もう少し、ゆったり構えられないものかと、素人目かも知れないが・・・」

「そりゃあ、私ももう少しゆったりと構えて事にあたらねばと思ってはおります。しかし、これまでのこの職場に、子どもらにとっては家ともいうべき場所に巣食っている「膿(うみ)」、私の思っている以上にありますね、質的にも量的にも。これをどうやって、出し切るべきか。それこそ、ですね・・・」

「それこそ、何だ?」

 大槻氏は、個々の問題点というよりも、この「職場」に巣食っている問題点について概説的に述べ始めた。


 大宮さんが3年前、ここでおっしゃったでしょう。それこそ、森田公一の歌っていた「青春時代」の歌詞ですよ。あの歌詞は確か、阿久悠作でしたよね。

 道に迷って、胸にトゲ刺すことばかりです。

 何より一番は、この地にはなぜこうも社会性が育っていないのか。

 こんな施設の中だけで通用するような社会性など、それこそ、あの米河清治少年がいつぞや述べた「犬や猫のじゃれ合い」。

 確かに耳が痛いが、それは当たっている。

 こんなところで通用しても、外に出れば全く通用しない。

 そんなこともわからん、若いだけで無能な職員どもを、いかに導くか。

 それこそ、大宮さんの会社から社員さんを派遣していただきたいですよ。

 米河君の叔父さん流に申せば、まあ、どいつもこいつも・・・。


「失礼いたします」

 安田事務員が、お茶を持ってきた。お盆は、烏城彫が掘られた木製のもの。

 湯呑は、やはり3年前と同じ、蓋つき。

 短大時代に喫茶店でアルバイトしていた安田事務員は、上司とその先輩にあたる来客に丁寧にサーブし、一礼して去っていった。その身のこなしは、まさに有能なウエイトレスと言っても過言ではない程である。

 加えて、今回は全開とは明らかに異なった香りが蓋の隙間から漏れ出てきている。


「早速ですので、どうぞ」

 大槻園長に進められて湯呑のふたを開けた大宮氏は、いささかならず驚いた。

「おい、大槻君、このお茶だが・・・」

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