精霊の意思

「わが名はアルバート、勇者の紋章に誓約を結ぶ。白き竜よ。わが眷属となれ」

「謹んでお受けいたします我が主よ」

 左手の紋章が輝くとそこから魔力が流れドラゴンの額に勇者の紋章が浮かび上がる。


「わが名はアルバート、魔王の紋章に誓約を結ぶ。黒き獣よ、わが眷属となれ」

「我が身命を賭して」

 魔王の紋章が輝き、獣の額に紋章が浮かぶ。


「「これにて契約は成された」」

 お前ら仲悪いわりに息ぴったりだよな。

 魔力のつながりが感じ取れた瞬間、二頭が光を放った。

 

「ふぉおおおおおおおおお」


 そこには真っ白な毛並みの小さな竜と、黒い毛並みの子犬がいた。

 思わず抱きしめる。モフモフの毛並みが非常に気持ち良い。


「ふぎゃあああああああああああああああああ!」

「あおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」

 モフモフたちが俺の腕の中でじたばたと動く。そうか、お前らも気持ちいいか!


『あー、魔王よ。言いにくいのじゃが……』

「へ?」

『その子らは相反する魔力属性を持つ故な』

「へえ?」

『密着させると互いの魔力を対消滅させて……』

「「死んじゃう―――――!!」」


 俺は慌てて二頭を手から離すと、なんか徐々に透き通ってきている二頭に向けて魔力を注いでやる。

「ってこいつらも魔力で構成されているのか」

『いえ、貴方と契約したことで存在が近くなったということでしょうね。肉体を魔力で構築している存在は我らのほかには……、いえ、いま言うべきことではありませんね』

 光の精霊が言葉を濁したことが気になったが、目の前でぴくぴくしている白黒のモフモフの方が気になった。

 取りあえず命の危機は去ったのかすやすやと眠り始めたので、それぞれ同じ属性の半身で抱えると、飛び回っていた時に見つけた、湖のほとりにある小さな集落に向かうことにした。


「ほうほう、こんな辺鄙な教会にいらっしゃるとは、敬虔なお方じゃ」

 100人ほどの村人が住む小さな集落では、湖畔の教会と呼ばれるこの村は、100年前の戦いのすぐあとにできたそうだ。

 相討ちで魔王を討ち取った勇者の後、勇者も魔王も現れないまま100年が過ぎた。

 それまでは勇者も魔王も命を落とした後は長くても1年以内に後継者が現れていたのだ。

 勇者の再臨を願って、勇者の最期の地である湖の湖畔に建てられたといういわれがあると案内してくれた村人が話してくれた。

 宿代わりになっている教会の離れは無料で貸してもらえるということで、すぐに部屋に入り横になる。


 百年、勇者も魔王も現れていないことについては精霊たちがすぐに議論を始めた。


『ふむ、我らもすぐに魔王を任じておった。それが当たり前だと思うておったからのう』

『そもそも勇者の後ろには守るべき民草がいましたからね。勇者がいないまま魔王が現れれば守るべきものがいない弱者が蹂躙されてしまいます』

「……なあ。あんたらって顔を合わせたことってあったのか?」

『ふむ、言われてみれば……汝の継承のときが初対面だったような気がするぞ』

『確かにそうですね。そもそも敵対していましたから』


「……なんで敵対していたんだ?」

『そういわれてもな。わからぬ。魔王を生み出し、導く。それが我の存在意義であった故な』

『同じですね。勇者を導き人々を救うことがわたくしの使命です』

「その使命とやらは誰が言いだしたんだ?」


 どうやら何か聞いてはいけないことを聞いてしまったらしい。何かを質問すると、すぐにでも答えてくれていた精霊たちが黙りこくった、


『……考えたこともなかったな。しかし、貴様という存在が生まれたことで我らの存在もまた変わりつつあるものと思うのだ』

『そう、ですね。少なくとも魔王は不倶戴天の相手でした。今は我が勇者の半身です。抹殺など思いもよらないことになりましたね』

『ふむ、であれば我らを作り出した創造主の考えも変わったということかもしれんな』

『ええ、アルバートの行く末に我らの行く先が見えるのかもしれませんね』


 などといい話をしていると……唐突にドアをノックされた。

 ドアの向こうには村人が詰めかけているのが分かる。すごく嫌な予感がした。


「勇者様! オラたちを導いて下せえ!」

「勇者様! 魔族を根絶やしに!」


『ああ、そういうことですか』

「どういうことですか?」

『教会の神父が勇者の魔力をたどることができる術を覚えていたようですねえ』

 シレっという光の精霊にいろんなものが込み上げる。

「勇者じゃないって言うのは?」

『無駄ですね。勇者には固有の魔力パターンがありますので』


 絶望的な状況に俺はため息を吐くと、無言でドアを開くのだった。

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勇者と魔王の力が合わさってなんかすごいことになった 響恭也 @k_hibiki

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