―38― 調べていた

「こいつを殺されたくなければ動くなよ」


 リーダーを拘束したオレはそいつから拳銃を奪い取っては、こめかみに銃口を突きつけては周りの連中を威嚇する。

 すると、全員臆したのか怯んだかのように半歩後ろへ下がった。


「寧々、今のうちにあの柱の後ろに隠れてくれ」


 真後ろにいる寧々に指示をする。流石に、寧々をかばいながら戦うのは厳しい。

 彼女はわかったと返事をすると走って柱の陰まで走って行く。すると、一人の男が寧々を射撃しようと拳銃を構えたので、逆にこちらから射撃してその男の腕を打ち抜く。すると、彼は呻き声をあげながら拳銃を床へ落とした。

 そんなことをしている間に、寧々は無事離れたところにある柱の陰へと避難したようだ。

 これでようやっと好きに暴れられる。


『お兄ちゃん、彼らを殺さないように気をつけてね』


 オレの思考を読んだのか妹のアキがそう警告する。


「わかっているよ」


 正直殺したいぐらい腹が立っているが、しかし殺してしまえば彼らから情報を引き出すことができない。それに、彼らにとっては殺されないほうが不幸かもしれないし。


「それじゃあ、始めようか」


 そう言って、オレは引き金を引いた。



 1人残されたレストラン内で風不死椎名は呆然としていた。

 さっきから入口を見ていると食べ終わったお客様が次々と帰って行く。それを見る度に、寿命がすり減っていくような気がした。

 今、寧々と奏生が会っているんだ。そんなことを考えているせいか、胃がキリキリしてしまう。


「椎名様、ご機嫌どう?」


 ふと、よく見知った顔が目の前にあった。

 月上玲奈。椎名の護衛役を務めている。

 彼女はずっと別の席でお客様として食事をしていたらしい。まったくそのことに気がつかなかった。それだけ自分に余裕がなかったのか、それとも彼女の目立たない技術が優れているのか。

 恐らく、自分の護衛でもしていたんだろうと椎名は思う。


「惨めな私を冷やかしに来たんですか?」


 ついトゲのある言葉を使ってしまう。


「うん、男に逃げられて惨めな椎名様を冷やかしに来た」


 逆に冷や水を浴びせられた気分になってしまった。

 そういえば、彼女は無碍に扱われたからって日和るようなタマではなかった。

「それでなんの用ですか?」

「暇そうにしていたら、以前依頼されたことを報告しておこうかと」


 なんの依頼をしたんだっけと椎名は考える。そして、あぁ、そうだった、と思い出す。


「忠仲奏生さんについてなにかわかったんですか?」


 そう聞くと、玲奈はうんと頷いた。

 結局なんでお爺様やお父様が奏生と結婚させたいのかわからないままだった。だから、玲奈に調べるようお願いしたんだ。


「平易な表現になるけど、忠仲奏生は天才だった」


 玲奈の言葉に椎名は目をぱちくりさせた。今まで、彼と一緒に過ごしたが、そんな印象を抱いたことは一度もなかったからだ。


「具体的にどう天才なんですか?」

「勉強ができる」


 玲奈の解答に呆れる。そんなはずがないと思った。


「通っている高校は進学校とかじゃなかったはずですが」


 勉強ができるなら市内で一番頭がいい人が通う進学校に通っていないとおかしいはずだ。その点、今通っている高校は市内で上から二番目の位置する高校だったはず。


「幼なじみと同じ高校に通うために学力をあえて落としているみたい」


 幼なじみという単語にしかめっ面をする。

 寧々のためにそんなことまでしているのか、と椎名は思った。


「ただ、IQに関しても並外れて優れているけど、さらに優れていることがある」

「他に優れている要素があるってわけですか?」

「喧嘩が並外れて強い」

「そんなふうには見えないですけど」

「とはいえ、事実のようだから。現に彼は今、10人以上の拳銃を持った男たち相手に一人で戦っている」

「え……?」


 椎名は驚く。奏生が寧々を助けるために動いているのは知っていたが、まさかそんな危険の状態に身を晒しているとは想像もしていなかった。


「大丈夫なんですか?」

「忠仲奏生にとって、この程度なんてことはない」


 ね、天才でしょう、と玲奈は断言する。

 なんであなたが偉そうなのよ、と椎名は思った。


「そんなの信じられないです」

「うん、信じられない。けど、彼は忠仲雁木の開発した教育プログラムを受けているから」


 忠仲雁木。確か、奏生の父親の名前だ。


「教育プログラムですか? 優秀な家庭教師でも招いているんですか?」

「そんなレベルじゃない。ドーピングやスマートドラッグによる知能向上やなどなど表じゃ言えないことをたくさんやっている」

「……そうなんですか」


 あまりにも非現実的な単語の羅列に、椎名はいまいち実感を得ることができなかった。ただわかることは、自分の息子をそんなふうにするなんて、想像以上に忠仲雁木という発明家は頭がおかしいらしいということ。


「忠仲奏生に関しての調査レポートを見つけた」


 そう言って、玲奈は一枚の資料を取り出す。その資料に書かれていることをこれから読み上げるつもりのようだ。


「『忠仲奏生は並外れた能力を持つものの、人間性においては著しく欠けている。彼には自分が存在せず、誰かが手綱を握らないと活動をしない』って書かれているけど、心当たりある?」

「……まぁ、わからなくはないです」


 奏生の幼なじみに対する異常な献身性を知っているだけに納得できてしまう。


「『風不死椎名が手綱を握ることで、彼の能力が社会に貢献することを願う』とも書かれている」

「……そうですか」


 これでようやっとなぜ、大人たちが奏生と結婚させたいのかわかった。

 そういうことなら結婚してもいいのかもしれないと思った。こんな境遇にいる以上、自分には自由恋愛が許されないのはわかっていたことだし、それに幼い頃奏生のことは確かに好きだった。今、彼のことをどう思っているかよくわからないけど。

 それでも、胸の中のしこりがとれなかった。

 いくら自分がよくても、彼が自分と結婚してくれると思えない。

 どうしても彼の幼なじみが頭にチラついてしまう。


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