―35― 拉致
「いなくなったってどういうことだ?」
今、オレは妹のアキと通話していた。
「結論から言うね。今、スマートフォンに送った場所にこれから向かって欲しい」
その言葉と同時に、通知を知らせる音が鳴る。
その場所はここから全力で走っても2時間以上はかかる場所にある廃墟ビルだ。
「おい、こんなところ走って行けるわけがないだろ」
「うん、だから今向かわせた」
瞬間、ブレーキ音が聞こえる。
目の前を自動車が停止したのだ。それもスポーツカーのように流線型のフォルムをしている。
「のって」
アキの言葉には有無を言わさないという気迫を感じた。
仕方なくオレは扉を開けて気がつく、この自動車に誰も乗っていないことに。一瞬、自動運転でここまで走ってきたのかという考えが頭を過ぎるが、いや、まだ完全な自動運転なんて実現していなかったと思うが。
「オレ運転免許は持っていないんだが」
「大丈夫、この車は免許を持っている私の知り合いが遠隔操作で運転するからなにも問題ないはず」
自動運転ではなく遠隔操作だったらしい。
それならなにもおかしくないか、と思いつつ車の中に乗り込む。車の中はよほどお金をかけているのか座り心地がめちゃくちゃいい。
それにしても遠隔操作できる車か。まだ、市場には導入されていなかったはず。オレの父さんの開発分野と異なるため、父さんはこの車には関わっていないはず。恐らく、知り合いからもらったとかなんだろうが、なぜ、それを妹が好きに使っているのだろうか。
まぁ、妹はよく父さんの研究所に遊びに行っているみたいだし、その繋がりか。
「アキ、それで説明してくれ。知っているだろ、オレには椎名との大事な約束があることを」
すでに自動車はエンジンを吹かして発進していた。
「風不死さんには、すでに遅れるって旨の連絡を今、入れたから」
そうかい。随分と要領のいい妹だ。
とはいえ、後でオレからも連絡を入れる必要はありそうだが。
「で、寧々がいなくなったというのはどういうことだ? ただの家出だったら、オレがこんなことする理由にはならないと思うが」
「家出じゃないよ。なんらかの組織が寧々ちゃんを拉致した可能性がある」
「……どういうことだ?」
「組織についてはまだなにもわからない。目的も含めてね」
「寧々は無事なのか?」
「寧々ちゃんはまだ生きている。もし、組織の目的が殺すことならすでに寧々ちゃんは死んでいた。だから、組織は寧々ちゃんはすぐ殺すことはしないと思う」
死んでいたって不吉な言葉に寒気がした。
どうやら想像以上に逼迫した状況らしい。
「なんで、寧々が生きているってわかるんだ?」
「その、去年寧々ちゃんの誕生日に腕時計プレゼントしたでしょ」
「あぁ」
腕時計といっても、電話やメッセージのやりとりができたりする非常に高性能な腕時計だ。
「その腕時計は脈も測れるから、それで寧々ちゃんがまだ生きているって。あと、GPSも内蔵しているから場所もわかった」
「それって、常に寧々のことを監視しているってことじゃねーか」
「監視って、ちゃんと許可はもらっているから問題はないはず」
そういうことなら問題はないのか……? まぁ、それに今回役に立っているわけだし。
「組織についてなんの情報もないのか?」
「わかんないけど、元々風不死さんが居候してから、不審な人が増えていたでしょ」
「……そうだな」
風不死が財閥のご令嬢なだけあって、どうしても怪しい人たちを寄せ付けてしまうようだった。とはいえ、風不死の関係者が対処していてくれていたようなので、オレたちはあまり気にしないようにしていたが。
「だから、その人たちの仕業かなって」
「椎名を狙うのはわかるが、寧々を狙う理由はなんだ?」
「それは、わかんないけど、ただ、結果的にはこうして寧々ちゃんが襲われてしまったわけだし……」
確かに、寧々が襲われる可能性なんて微塵も考慮していなっただけに、こうして襲撃を許してしまった。警戒を怠ったオレたちの失態か。
「まぁ、組織については後で調べるとして、ひとまず、オレはどうしたらいいんだ――?」
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