―32― ★悲壮
寧々はトイレの個室で呆然としていた。
まさか吐いてしまうほど、具合が悪いとは思っておらず、逆に驚いてしまっていた。学校を早退しようかという考えが頭をよぎるが、吐いたおかげで気分が落ち着き、早退するほどではないかと判断する。
結局、その日は最後まで授業に出た。
翌日、昨日みたいに遅刻しないと心に決めた寧々はスマートフォンの目覚まし機能を複数の時間にセットする。
結果的に時間通り学校に行くことができた。
具合が悪くなることもなかったのでこの調子で明日もがんばろうとか考える。
なんてことを考えていた帰り道。
偶然にも見つけてしまった。
奏生と椎名が並んで一緒に帰っているところを。
そういえば帰り道が一緒なんだと当たり前のことを思い出す。
見たところ親しそうなに会話している。どこからどうみても仲の良いカップルにしか見えない。
「うぐっ」
急に胸がざわつき始めた。
なんで奏生の隣にいるのが私じゃないんだろう、と。
そう思うと、自分が情けなくて涙が零れてくる。
こんな顔を奏生と椎名に見られたらどうしよう……。無様な私を見てあざ笑うんじゃないだろうか。そんな考えが頭に一瞬でもよぎった途端、この場にいたくなくなり、逆方向へと走って逃げた。見つかる前に、ここを立ち去らないといけない。
気がつけば、寧々は人目のつかないベンチに座って泣いていた。
帰ってからは泣き疲れたのか、なにもやる気が起きず、着替えもしないでベッドに飛び込む。
夕飯も食べる気がしない。
だから、気がつけば、そのまま寝落ちしていた。
目を覚ます。
あれ? 今何時? と、寧々は窓の外を見る。空は明るい。ということは、もう朝のようだ。
寝起きなのか頭の中がボーッとして、うまく物事を考えられない。
スマートフォンを見ようと電源ボタンを押すも画面が黒いまま。壊れた? と一瞬思考して、ただ充電がなくなったんだと気がつく。毎日寝る前には、必ず充電をするのにそれすら忘れていたらしい。
ひとまずスマートフォンを充電器を差し込み、時間を確認しようと、パソコンの電源をつける。
そして、気がつく。
すでに始業時間を大幅に過ぎていることに。
途端、ゾッと背筋が凍り、青ざめる。
どうしたらいいんだろう、と寧々は悲観した。
いなくなって始めて奏生のありがたみを感じる。
奏生に会いたい。会って甘えたい。けど、もうそれができないんだと思うと悲しくて涙があふれてくる。
スマートフォンの電源を入れた途端、着信音が鳴り響いた。
知らない番号からだったが、もしかして学校の先生かもしれないと思ったので電話に出る。
「あぁ七皆、やっとでたか。学校に来ないから心配したぞ」
「すみません」
やはり先生からの電話だった。
「どうかしたのか?」
「寝てました」
「具合でも悪いのか?」
「いえ、そういうわけでは……」
「だったら今からでも学校に来れるな」
そう言われて、しまったと思った。具合が悪いことにして休めばよかった。とっさだったので、つい正直に答えてしまった。
「わかりました」とうなずいて電話を切る。心底行きたくないけど仕方がない。
遅刻したせいで、授業中に教室に入らなくてはいけなかった。おかげで、生徒たちに注目されるいうこの上ない羞恥を味わうはめになった。
「寧々っち、今日どこか遊びにいこうよー」
放課後、サキサキコンビの黒い方の早紀が話しかけてきた。
「別に、いいけど」
「わたしもいくー」
と、サキサキコンビコンビの白いほうも行くつもりのようだ。
そんなわけで3人でカラオケに行って遊ぶ。久々だったけど3人で遊ぶのは楽しいと寧々は感じた。
もしかしたら、落ち込んでいるのを元気づけようと誘ってくれたのかもしれない。
ホントいい友達を持つことが出来たようだってことを再認識した。
今週の土曜日と日曜日はどちらも学校へ行く用事がなかった。
だから2日とも、一度だけお腹が空いたからスーパーでお弁当を買ったときに出かけたぐらいで、ほとんど家で過ごした。
いつもなら休みの日は買い物にでかけたり、ゲームをしたりして過ごすが、どちらもやる気が起きず、ただベッドで寝転がっていた。
いくら寝てもどうしよもなく気怠くて、起き上がることすらできない。
起きているときは、ボーッとスマートフォンを眺めてはたまに奏生のことを思い出し悶えては気がつけば寝ている
あまりにもだらしのない休日だった。
月曜日になってしまった。
意識が覚醒した頃には、すでに始業時間を大幅に過ぎていた。
しまったという感情よりも、どうでもいいという感情のほうが勝っていた。
もう学校に行く気にはならない。どうせ学校に遅刻して行けば、また好奇の目にさらされることになる。だったら、いっそう学校は休んでしまったほうが楽だ。
学校には休む旨を連絡する。
そして、再びベッドの上でだらける。
けど、お腹が空いたので一度だけスーパーマーケットにてお弁当を買う。お弁当を選ぶのもダルいため、ここ最近ずっと同じ弁当しか買っていないような。
家に帰ったらお弁当を食べ始める。
ここ最近、寧々は食が細くなったのか食欲が減退していた。さっきまでお腹が空いていたはずなのに、半分も食べるとお腹がいっぱいになってしまった。食欲が減退したおかげで、1日1食で満足できるというメリットはあるのだが。
とはいえ、食べ物を残すとなるとゴミとして捨てなくてはいけない。それもまた、面倒だと感じてしまったので、最後までなんとか食べ終える。
そして、空になったプラスチック製の弁当箱を台所へ持って行く。すでに台所は空になった弁当箱が山積みになっていて非常に不衛生だった。それでも、片付ける気は起きず今回も放置した。
そういえば、昨日、シャワーも浴びてなかった。ふと、そんなことを思い出した寧々は、服を脱いで脱衣所に向かう。
そのときだった。
ピンポーン、とインターホンが鳴らされた音が響いたのだ。
「奏生……!」
反射的にそう叫んでいた。
いつも会いたいと思ったとき奏生はこうしてインターホンを鳴らしてくれた。
着替え途中だったため半裸ではあったが気にせず駆け足で玄関に向かう。
「忠仲さんではなくて申し訳ないです」
扉ごしに聞こえた声はどこまでも冷たくて淡々としていた。
声の主が風不死椎名だとすぐにわかる。同時に、なんとも言いがたい悲壮感がこみ上げてきた。
「なにしにきたの……ッ?」
寧々には、椎名が惨めな自分を笑いにきたんだとしか思えなかった。
「今日、学校を休んでいたみたいなので様子を見にきました。その様子なら、生きてはいるみたいなのでひとまず安心しました。その、お話したいので中にいれてくれませんか?」
「帰って」
反射的にそう叫んでいた。
「帰ってよ……」
そう呟きながら、今度は涙がこみ上げてくる。
こんなふうに感情的になってしまう自分がどこまでも情けない。
「……わかりました。なにかあったら連絡をください」
椎名の去って行く足音が聞こえる。
悔しかった。
なんで奏生じゃなくて椎名が来たんだろうか。
「奏生に会いたいよ……っ」
そう弱音を吐いたところで誰の耳にも届くはずがないのに。
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