―30― 関わらないで
結局、妹のアキは追いかけたけど、寧々は部屋に閉じこもってしまったせいで会うことが叶わなかったようだ。
結果的に寧々を除いた3人だけの夕食になる。
「………………」
食事中、誰も言葉を発しようとしない。この空気はなんとも気まずい。
「明日の朝、どうするんですか?」
それからしばらくして、椎名が口を開いた。
どうするって一体なんのとこだろう、と思考を巡らせて、気がつく。
いつもなら朝必ず寧々の家にいって仕度を手伝うんだった。
けれど、寧々に「私の家に来なくていい」と言われたんだ。寧々の言葉通り、朝になってもなにもしないのがいいんだろうか……。
「えっと、どうしたらいいかな?」
結局、自分では結論がつかなかった。
「行かないのが無難だと思いますよ」
確かに、そうだよなー、と椎名の言葉に同意する。けど、どうしても不安だという感情が拭えない。
「アキはどう思う?」
「わかんないけど……当分の間は行かない方がいいんじゃないかな」
アキも同じ考えのようだ。
そういうことなら行くのは当分控えよう。
◆
翌朝、いつも通り朝起きて支度を始める。
「量多くないですか?」
朝ご飯の準備をしていたら突然横から声が聞こえた。見ると、椎名が立っていた。
「そうかな……」
どれだけ見ても、いつもの量と変わりない気がするが。
「今日は二人分だけでいいはずなんですけど」
そう言われてようやっと気がつく。朝起こしに行くだけではなく昼食べる弁当も寧々の分は用意しなくていいのか。
「悪い、気がつかなかった」
「別に、謝ることではないと思います」
多く作ってしまった分は冷蔵庫にでもしまって次の機会に食べることにしよう。
寧々のことを考えなくていい分、いつもより早めに支度が終わった。
「それじゃあ、行きましょうか」
椎名に促されて、玄関を出る。
寧々のやつ一人で大丈夫だろうか。正直、不安だ。初めて自分の子供がおつかいに行くのを見守る親にでもなった気分だ。
「いくら気にしても仕方ないと思いますけど」
顔に出ていたのか、椎名が呆れた様子でそう告げる。
「わかったよ」
そう頷くも、どうしても不安は拭えなかった。
「おはよう」
教室でいつも通り澄川と雑談をしていると、透き通った声が聞こえた。
見ると、寧々が教室へとはいってきた瞬間だった。
いつもより登校する時間が遅いとはいえ、時間ギリギリというわけではなく始業時間にまでまだ余裕はある。
いつも寧々の髪の毛をオレが梳いているため身だしなみも大丈夫かと心配だったが、髪はきれいに整えられていてぱっと見た感じはなんの不自然さもなかった。
それから寧々は仲の良い友達と雑談を始めていた。
杞憂だったかな、とか思う。
寧々だって、幼い子供ではないんだ。本来なら自分のことは自分でできるはず。もしかすると、今までオレは甘やかしすぎていたのかもしれない。
昼食も寧々は売店にいって好きなものを買って食べていた。
この様子なら、オレがいなくても大丈夫そうだ。
翌日も翌々日も寧々はいつも通り、登校してきた。
3日後、寧々は遅刻してきた。
とはいえ、始業式が始まってすぐに登校してきたので、多少の遅刻で済んだ。とはいえ、身だしなみの時間はなかったようで、髪はいつもと違って荒れていた。
次の日は通常通り登校してきたので、たまに遅刻することもあるだろうと、あまり気にしないことにした。
その次の日、寧々は始業時間から4時間も遅れて遅刻してきた。
授業中に突然、扉を開けて寧々が入ってきたため生徒たち皆が驚く。
「随分と遅い登校だな。どうしたんだ? 具合でも悪かったのか?」
教鞭をとっていた先生が寧々に対してそう言う。
「いえ、その、寝坊しただけです……」
寧々は頬を赤らめつつ、そう言った。
「そうか、次からは気をつけるんだな」
先生がそう言うと、寧々は自分の席へとついていった。
休み明け、この日も寧々は朝からいなかった。
「今日も休みか。ここのところ続いているな」
朝、寧々の席が空席なのを確認して担任の先生がぼやいていた。
「連絡なかったが、事情を知っている人はいないか?」
そして、生徒たちにそう告げるが発言する人は一人もいない。
「あとで確認するか」
そう言いつつ、先生は教室を出て行った。
その日、寧々は学校を欠席した。
「心配ですか?」
下校中、椎名がそう尋ねてくる。
「まぁな。最悪、風邪でも引いて一歩も動けないかもしれないし」
とはいえ、オレが寧々の様子を確認しに行くわけにもいかないんだろうし。
「私が様子を見に行ってきてもいいですよ」
ふと、椎名がそう提案する。椎名がこんなことを言うなんて意外だ。
「いいのか?」
「えぇ、死んでないか確認する必要はあるでしょうし」
「それじゃあ頼むよ」
不吉なことを言うな、と思いつつ椎名にお願いする。
オレは家に来るな、と言われているが、椎名に関してはなにも言われていない。だったら、オレより適任だろう。
「どうだった?」
家に一度帰ってから、様子を見に行った椎名が戻ってきたので、そう聞いた。
「生きてはいました」
ぶっきらぼうな調子でそう答える。
「えっと、具合とか悪かったのか?」
「それはわかりません。中にいれてもらえなかったので。でも、扉ごしにお話することができましたので、生きていることは確かです」
「そうか」
ひとまず安心していいのか……?
とはいえ、オレができることはなにもないしな。寧々一人でうまいこと解決してくれることを祈るしかない。
次の日、この日も寧々は欠席した。
それから、七皆寧々は一度も学校へ登校してこなかった。
彼女は不登校になったのだ。
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