―27― 断捨離

「それで、具体的になにをしたらいいんだ?」


 七皆寧々が自立できるようサポートをすると言ったものの、特にこれといって思いつかない。

 だから、放課後椎名と下校しながら、そんなことを尋ねた。


「そうですね。ひとまず私に任せてほしいです」


 どうやらオレと違って椎名にはなにやら考えがあるみたいだ。そういうことならと、椎名に任せることにした。


「それで、一体なんのよう?」


 寧々が仁王立ちで立っていた。

 帰ってきたオレたちはすぐに寧々の部屋へと向かったのだ。


「今朝言ったこともう忘れたんですか? あなたが最低限人間らしい生活を一人で送れるよう私たちがサポートする。だから、こうして来てあげたのですから、感謝の1つぐらいしてほしいものです」

「……別に忘れてない。あと、その言い方すごくムカつく」


 寧々が単刀直入に不満を声にあげる。

 確かに、オレも同じことを思ったけど、今ので椎名が不機嫌になるんじゃないかって、うっ胃が痛くなってきた。


「あら、それは大変失礼致しました。あなたみたいな人が目の前にいると、嫌みの1つでも言わないと気が済まないので、つい口が滑ってしまいました」


 一瞬、椎名のやつ珍しく素直に謝ったなと思ったオレがバカだった。


「あんた本当にいい性格してるよね」


 とか言って、寧々のやつ目を真っ赤にさせているし。


「褒めてくれてありがとうございます」


 椎名も気圧されることなく、対抗しているし。


「別に、褒めてないしー! 皮肉もわかんないのー!」

「だから、皮肉で返したんですが、どうやら伝わらなかったみたいですね」

「そ、それで、寧々の部屋でなにをするつもりなんだ?」


 このままだと収拾がつかなくなりそうなので、二人の間に無理矢理割り込む。


「どうやら寧々さんは掃除が苦手なようなので、部屋の整理整頓をしてあげようかと」

「代わりに掃除してくれるの?」

「違います。整理整頓です」


 寧々の質問に対し、椎名が否定する。

 けど、オレも寧々同様椎名の言わんとすることがわからなかった。


 それから椎名は一通り部屋の様子を観察し始める。

 そして、一言こう口にした。


「掃除できない人って、共通して物が多いんですよね」


 椎名の言うとおり、確かにこの家には物が多い。ところ狭しと物が置いてあっては散乱している。


「そういうことですので、いらない物全部捨てましょうか」


 それからオレの家から大量のゴミ袋を持ってきては、椎名は次から次へと袋の中へつめていく。


「そ、それは、捨てちゃダメ!」


 とはいえ、容赦ないゴミの選別に寧々は声をあげる。


「こんなのゴミ同然だと思いますけど」


 椎名が手にしていたのはボロボロになった少女漫画の雑誌だった。


「えっと、たまに読み返したらおもしろかったりするし……」


 寧々の歯切れ悪い回答を聞いた椎名は容赦なくゴミ袋へとつっこんだ。気持ちはわかるが、そんなことを言ったらあらゆる物を捨てられなくなる。


 それから椎名は次々と必要なものとゴミを仕分けていった。

 サイズのあわなくなったセーターに色あせた下着。どこで買ったかも覚えていないキーホルダーに途中でやめた日記帳。それから同じ色のボールペンに、年賀状やら使用期限の切れているポイントカード。昔使っていた財布や肌にあわなくて使うのをやめた化粧品なんかも。

 次から次へと、椎名はゴミと判断したものを袋へと詰め込んでいく。

 それからプラスチックのケースを買ったりしては、小物を入れて綺麗に整頓なんかもしたりした。


「こんなところですかね」


 椎名が満足した頃には、もう遅い時間になっていた。

 部屋の片隅には、ゴミのはいった袋が積み上げられている。

 寧々はというと、大量に物を捨てられたことによる精神的なショックを受けたのか、膝をついてはうなだれていた。


「これで掃除も簡単になりましたし、自分で部屋を綺麗にすることを覚えてくれたらいいのですが」

「ありがとう、椎名。ここまで大がかりなことはオレもやったことがなかったから、すごく助かったと思うよ。なぁ、寧々もそう思うだろ?」

「そ、そうね……。一応、感謝してあげる。ありがとう」

「いえ、もしこれでまた同じように部屋を汚くしたら、今度は必要なものも含めて全部捨てるだけです」


 椎名の厳しい言葉に、寧々は「うっ」と呻き声をあげる。

 流石に椎名もそこまで厳しくないと思いたいが、いや、椎名のことだし本当にやるんじゃないかと思ってしまう自分がいるな。


 流石に今日は夕飯を作る気力がないし、みんなでご飯を食べに行こうってことになった。妹のアキも誘って、近くのファミリーレストランにて食事をとる。


「それにしても意外だったな」


 道中、椎名に話しかける。


「なにがですか?」

「お嬢様にあれだけの生活力があると思っていなかった」


 オレのイメージするお嬢様は、余計なものも含めて大量の高価な物に囲まれているイメージだ。そんなお嬢様がいらないと判断してあれだけの物をゴミに捨てることができるとは。


「お嬢様を馬鹿にしないでください。確かに、私の家には大量に物がありますが、管理する人もいますので、物が溢れることはないですね」

「じゃあ、どこで身につけたんだ?」

「花嫁修行です」


 いや、嘘つくなよ! どこで物の捨て方まで修行する花嫁がいるんだ。


「あえて庶民の家に住まわされては、庶民の生活を徹底的に叩き込まれました」


 椎名がゲッソリとした表情でそう呟く。

 その言い分だとあながち嘘ではないらしい。金持ちってそこまでやるのか。なんか恐ろしくなってきたな。


 ファミレスで食事を終えた後、椎名の希望で近くのスーパーマケットまで足を伸ばす。てっきり買いたいものでもあるのかと思っていたがそうではなく、寧々に色々とアドバイスをしたいようだった。

 料理ができない寧々のために、おいしい冷凍食品やレトルト食品を教えていた。無理に料理をやらせるのではなく、料理をしなくても済む方法を教えるつもりのようだ。この方法なら、寧々でも実践できそうだ。


「いつの間に仲良くなったの?」


 ふと、アキが話しかけてくる。

 視線の先では、椎名と寧々があれやこれやと食材について話していた。


「本当に仲良くなってくれたらいいんだけどな」


 一見、仲よさそうに話しているが、明日になったらどうなることやら。

 二人が和気藹々と話している姿を想像しようとして、できそうになかったのでオレは渋々諦めた。


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