―26― いたって普通
「椎名様、久しぶり」
椎名が一人で学校の廊下を歩いていると、ふと声をかけられた。
同じ制服を着ていることから、この学校の生徒だってことが明らかだ。
「
「椎名様、新生活を楽しんでいるみたいでなによりかも」
「別に楽しんでないですよ。もし、そう思ったならあなたの誤解かと」
「なるほど、そういうことにしておく」
淡々と感情がこもっていない口調でそう口にする。
「それで、わざわざ学校で話しかけて、一体なんのつもりですか? あまり人前では話しかけてこないで、と以前言ったつもりですが」
「確かにそう言われたけど、了承したとは一言も言っていない」
澄ました表情で玲奈はそう口にする。その堂々とした口ぶりが気に入らず椎名は不満そうに表情を歪ませる。
「ホント生意気ですね。私の部下の言動とは思えないです」
「私はあなたのお父様、
玲奈が前のめりになって主張する。どうやら失言をしてしまったらしい。確かに、この手の話は気にする人はすごく気にする。
彼女は椎名より早く4月のはじめに隣のクラスに転校していた。とはいえ、椎名の希望によりあまり関わってこないようお願いしていたが。
「それで、婚約者との新生活はどう?」
玲奈は小首を傾げながら尋ねてくる。
「お父様に報告するよう言われてるんですか?」
「もちろん報告はする。ただ、個人的な興味もある」
そうですか、と椎名は嘆息する。監視されているようで、正直鬱陶しい。
「特に変わったことはなにも。けど、今のところ彼と結婚するつもりは毛頭ないと伝えておいてください」
「まだ、そんなわがまま言っているんだ」
玲奈が半目で睨みつけてきた。
「あなたのお父様、重隆様も結婚を望んでるのに」
「私はあなた方の道具じゃないとお伝えください」
「なにが不満なの?」
玲奈が顔を近づけてきた。
こうも見つめられると、気圧されそうだ。
「そもそもわからないんですよ。お祖父様もお父様も、なんでそんなに彼と私を結婚させたいのか。彼と少しの間一緒にいましたけど、彼はいたって平凡で取るに足らない人物だと思いますけど」
「そんなこと思っていたんだ」
玲奈は淡々とした調子でそう言う。
「まず、彼の父親忠仲
確かに、忠仲奏生の父親は有名な発明家で、風不死グループに非常に大きな利益をもたらしてくれたというのは聞いている。けど、それだけの理由で彼の息子と結婚しろというのは些かおかしい気がする。
「あともう一つ、忠仲奏生が平凡というはあなたの勘違い。発明家忠仲雁木に一番の発明品はなにかと聞いたらこう言ったそうよ」
玲奈は一度、口を閉じてからこう口にした。
「『私の息子だ』と」
椎名は思わず顔をしかめた。正直、玲奈の言葉が理解できなかった。
だって、忠仲奏生はどこからとう見ても普通の人間だ。
「それともう一つ、忠告がある」
忘れていたことを思い出したとばかりに、玲奈がこっちに振り向いた。
「最近、
その言葉を残して、彼女はこの場から去っていった。
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