―21― オレの幼なじみが不機嫌

 まさか寧々が家にいるとは思わなかったな。

 とはいえ、寧々はよくうちに遊びに来ては夕飯を一緒に食べる。だから、椎名と同棲していることは遠からずバレることだった。

 とはいえ、まさか借金していて帳消しにするために婚約している、なんてことを寧々に説明するわけにもいかず、ホームステイしているってことにしておいた。

 冷静になって、ホームステイってなんだよ、とか思うが、椎名はつい最近まで海外にいたことだし誤魔化すしかない。


「寧々も夕飯食べていくだろ?」

「うん……」


 と、彼女は首肯する。

 相変わらず元気がない。まぁ、椎名の前でいつもの調子でいられるのも困るのだが。


「寧々さんも夕ご飯ご一緒するんですか?」


 そう聞いてきたのは椎名だ。


「あぁ、別にいいだろ」

「えぇ、もちろんかまいませんが、その様子だと頻繁に夕飯をご一緒にしているんですね」


 椎名の半目に見つめられると、なんか詰問されている気分になるな。


「まぁ、そうだな。週に何度か夕飯を一緒に食べるよ。今日の夕飯の当番はどっちだっけ?」

「今日は私の当番かと」

「そうか」


 そんなわけで夕飯の準備は椎名に任せてしまう。

 手持ち無沙汰になってしまった。

 いつもなら、暇な時間は勉強したり趣味の時間にあてるが、今は寧々がいる以上、そういうわけにもいかない。


「寧々、調子はどうだ?」

「別に……」


 そう返答する寧々は不機嫌そのものだった。


「ホームステイが夕飯を作るんだ」


 寧々がそう指摘する。確かにそう言われると、おかしいな。普通お客さんに夕飯を作らせない。


「いや、彼女料理が好きみたいでさ。だから、たまに料理を振る舞ってくれるんだよ」

「ふーん、そうなんだ」


 やっぱり寧々のやつ不機嫌じゃねぇか。なんでこうも機嫌が悪いんだ。


「お兄ちゃん、ちょっと、こっち来て」


 ふと、小声で妹のアキが袖をひっぱる。それからアキの部屋まで連れ出される。


「寧々ちゃん、やっぱりお兄ちゃんのこと好きなんだよ。だから怒っているんだよ」


 アキがそう主張した。


「いや、そんなはずが……」


 否定しようとして少し考える。確かに、寧々がオレのことが好きなら、ここ最近の異変は説明がつくかもしれない。


「仮に、寧々がオレのことが好きだとしても、どうしようもないだろ。もう椎名がいるんだから」

「なんで? 寧々ちゃんと結婚したらいいじゃん。お兄ちゃんだって風不死さんのこと特別好きじゃないんでしょ?」

「いや、あのな。風不死と結婚しないと借金がな」

「お兄ちゃんは、愛よりお金のほうが大事だって言うの!? 信じられない!!」


 なんだその、ドラマにでもでてきそうなセリフは。


「そもそもオレは寧々のこと恋愛対象として見ていない。寧々だって、恐らくそのはずだ……。だから、寧々が不機嫌なのも別の原因だ」

「ふっ、ふぐぅ……っ」

「なんでアキが泣くんだよ」


 お兄ちゃんには、お前がわからんよ。


「だって、お兄ちゃんは……っ、寧々ちゃんと結婚する思っていたから……っ」


 そう言って、アキは感極まったかのように涙をこぼす。


「えっと、そもそもオレが椎名と結婚できると決まったわけじゃないんだしさ、だから、まぁ、お前の望み通り寧々と結婚する未来もあるかもしれないだろ。だから、泣き止めよ」

「うん……っ、わかった」


 アキの頭を撫でてやると、彼女は返事をしつつ両腕で目をこする。


「ほら、こんな顔見られたら心配されるだろ。だから、顔を洗ってこい」


 そう言って、彼女に洗面台へと促す。

 オレが寧々と結婚ね……。

 そもそも椎名と結婚できなければ、オレには多額の借金が残るというわけで、そんなオレと寧々が結婚してくれるとは流石に思えないんだけどな。


 なにしろ『金よりも愛が大事』なんてただの理想論なのだから。




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ランキング落ちたぁ ๐·°(৹˃ᗝ˂৹)°·๐

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