―20― ★出会ってしまった

 パンケーキ屋で奏生のことが好きだと自覚した寧々はサキサキコンビと別れて自宅へと直帰した。

 奏生と椎名はまだどこかへ出かける様子だったが、それを追いかける気力はもうなかった。

 なんせ、あの二人が一緒にいるだけで、胸はキリキリと痛み寿命が縮みそうなのだから。


 どうしよう……と、寧々は呆然としていた。

 好きだと自覚はしたものの、なにをしたらいいのかわからない。


「あのとき、好きだと言っていればよかったな……」 


 思い出すのは、まだ小学生だった頃、奏生に告白されたときのこと。このとき寧々は、まさかこんなことになるなんて思ってもいなかった。

 それから奏生はずっと特別扱いしてくれて、それをいつしか当たり前のことだと勘違いしていた。

 けど、奏生に彼女ができて初めて寧々は危機感を覚えた。奏生が自分の手から離れてしまうんじゃないかって。

 それが好きってことなんだと指摘されて、納得するのは難しいことではなかった。だって、奏生がいなくなることを想像するだけで、こんなにも胸が苦しいんだから。


「奏生、好き……っ」


 想いを口にすればするほど、想いが大きくなっていくようで。


「奏生、好き……。奏生、好き……好き、好き好き好き……」


 気がつけば、コントロールできないんじゃないかと思うぐらい、感情が肥大化していった。


「あ、寧々ちゃん、久しぶりー!」


 ふと、住んでいるマンションの玄関へ入ると、よく見知った顔がそこにはあった。


「アキちゃん、久しぶりね」


 そう、目の前にいたのは奏生の妹、アキだった。


「買い物をしてたの?」

「うん、そうなんだ。お兄ちゃん、今日は用事があるから代わりにね」

「……そうなんだ」


 寧々はあることに気がついてしまった。その用事というのはデートのことしか考えられない。


「そういえば寧々ちゃん、最近家に来てないね」

「少し忙しくて」

「そうだ、今日夕飯食べに来てよ」

「えっと……」


 どうしようか、と寧々は悩んでいた。

 最近、遊びにいけなかったのは気が進まなかったからだ。そして、奏生のことを好きだと自覚した今、もっと気が進まない。

 どんな顔をして、奏生と会えばいいんだろうか?

 とはいえ、明日の朝、どうせいつものように奏生は寧々の部屋にきて支度するのもまた事実。どうせ今日会わなくても明日の朝会うことに変わりない。

 だったら、朝の寝ぼけたときに会うよりも、今のうちに会って心の整理をしたほうがいいかもしれない。


「うん、いいわよ」


 だから、寧々はそう返事をした。


「お邪魔します」


 と言いながら、寧々は玄関へ入って、あれ? と、違和感を覚えた。

 何度もこの家に足を運んだことがあるため、玄関は見慣れていた。だから、違和感の正体にもすぐ気がつく。

 そうだ、見たことがない靴があるんだ。しかも女物の靴。なんで? と首を傾げるが、すぐにアキちゃんが新しく購入した靴だろうと結論づける。アキちゃんが履くにしては、サイズが少し大きい気がするが、気のせいだ。

 それから寧々とアキは揃って洗面台で手を洗う。

 そこでまた、あれ? と思うことがあった。見覚えのないうがい用のコップが一つ増えていた。歯ブラシの数も1つ増えているような……。

 とはいえ、気にするほどのことではないかと、寧々はスルーすることに決めた。


「寧々ちゃん、少し待っていてね」


 そう言ったアキは台所へと買い物袋を持って行く。恐らく、買った物を冷蔵庫にでも入れるつもりだろう。


「手伝う?」

「いいよ、すぐ終わりから」


 そういうことならと、寧々は黙って待つことにした。手持ち無沙汰なので部屋の隅々を眺める。

 あれ? と再び思った。

 それは女物のブラジャーが干されてあったのだ。アキのだろうと、結論づけそうになるが、サイズがまったく異なる。アキの胸はこんなに大きくない。


「ねぇ、アキちゃん?」

「どうしたの?」


 すでにアキは買った食材を冷蔵庫に入れ終えて、リビングにまで戻ってきていた。


「もしかして、今、私の知らない人が住んでいる?」


 それしか考えられなかった。

 もしそうなら、玄関の靴も謎のブラジャーも日用品が1つ増えていることも全部納得がつく。


「あー、そっか言っていなかったね」


 と、アキは忘れていたとばかりに破顔する。


「今、女の人が同居しているんだ」

「そうなんだ」


 と、頷きつつ、どうしてそんな経緯になったか想像する。そういえば、母親が昔からいなかったから、その人が帰ってきているとかだろうか?


「でも、私はその人のことあまり好きになれないんだよね」

「そうなの?」

「うん、私はやっぱり寧々ちゃんのほうが好きだから」

「えっと、どういう意味?」


 そう質問をすると、アキは「えーと」と困った仕草をする。


「その、寧々ちゃんはさ、お兄ちゃんのこと好きじゃないの?」


 突然、そんなことを聞かれて、ドキリと動揺する。なんで、突然そんなことを言い出すんだろうか。


「べ、別に好きじゃないけど」


 慌てて寧々は否定した。流石に、この場で好きだと伝えるほど心の準備はできていなかった。


「じゃあ、仕方がないのかな……」


 アキは残念そうにそう呟く。なにが仕方がないんだろう、と気になるが、なんとなくそれを聞いてはいけない気がしたので、なにも言わないことにする。


「ねぇ、寧々ちゃんなにして遊ぶ?」


 だから、アキが話題を変えたことに寧々は内心ほっとする。


「そうね」


 いつもみたいにゲームしてもいいし、ただ雑談してもいい。


「この前、おもしろいゲーム見つけてたし、それでもして遊ばない?」

「えぇ、いいわよ」


 それから寧々はアキと一緒にゲームをして時間を過ごした。

 そして、夕方。

 ガチャリ、と扉が開く音が聞こえた。

 どうやら奏生が帰ってきたようだ。


「寧々、遊びに来ていたのか」

「えぇ、そうよ。遊びにきてあげたわよ」


 そうやって、奏生いつものやりとりをする。


「七皆さん、学校で会ったぶりですね」


 そして、気がついてしまう。帰ってきたのは、奏生一人ではなかった。


「え……?」


 寧々は唖然としていた。

 というのも風不死椎名が奏生と一緒に帰ってきたのだ。しかも、椎名は奏生と手を繋いでいた。とはいえ、二人が恋人なのはわかりきっていたことだし、彼女が彼氏の家に遊びにくるのも不自然なことではない。

 でも、寧々にはもう1つ気かがりなことがあった。

 アキが言っていた、この家に住んでいる女の同居人のことだ。

 そして、ピースが揃うように2つのことが1つの結論へと至った。


「も、もしかして、風不死さんってここに住んでいるの?」

「あぁ、そうだよ。そういえば寧々には言っていなかったな」

「な、なんで一緒に住んでいるの?」


 そう尋ねると、奏生は困ったように頬を掻く。そして、再びこう口にした。


「ホームステイしているんだよ、うちに」


 奏生がそう口にした瞬間、寧々のなかでなにかが壊れた。




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