―18― ★今更気づいても……

 奏生と椎名が食べている様子を遠くから観察している一団があった。

 サキサキコンビと寧々の三人組である。奏生と椎名の後をついていった彼女たちは、パンケーキ屋の中まで入っていたのだ。

 彼女たちも席についてはパンケーキを頼みつつ、奏生と椎名の様子を伺っていた。


「ねぇー、なにしゃべってるか、聞こえるー?」

「ここからじゃ、流石にわかんなくない?」


 サキサキコンビは耳を澄まして、二人の会話を聞こうとするが、席が離れているせいで、内容まではわからなかった。


 そんな様子を、七皆寧々は鬱々した表情で眺めていた。


「うぐ……っ」


 椎名と奏生が一緒におしゃべりをしているのを見ていた寧々はさっきから胸が痛いのを我慢していた。寧々の目から二人の様子はラブラブなカップルにしか見えなかった。

 なんでこんなに胸が痛いのか考える。

 所有物を他人に奪われた気分。

 けど、モヤモヤの原因はそれだけではないような……。


「ねぇ、あいつらのデート邪魔してきてよ」


 寧々はサキサキコンビの二人に対しそう呟く。


「邪魔って……」

「えーっと、そんなことを言われてもなにしたらいいか、わかんないんだけど」


 二人ともやる気がないなら自分がやる。

 そう思って、立ち上がろうとして――。


「ねねっち、好きな人を取られて悲しいのはわかるけどさー、いったん落ち着けって」

「好き……?」


 寧々は一瞬言葉の意味を理解できなかった。

 それを察してか、サキサキコンビの片割れ桜坂早紀、通称サキサキコンビの黒い方は説明を始める。


「だから、好きなんだろ。ねねっちは忠仲奏生のことが」

「ワタシが……?」


 ワタシが奏生のことが好き? そんなことをあり得るんだろうか、と寧々は考える。


「あ、あんなやつ、ワタシが好きなわけないじゃん……ッ!!」


 反射的に否定する。

 奏生は寧々にとってただの下僕であって、そんな下僕を好きとかあり得ないにもほどがある。


「いや、流石にそれは」

「そんなんだからさ、他の女子に盗られちゃうんだよ」


 けれど、サキサキコンビは寧々の言葉を信用していないようだった。


「ちがっ」


 なおも否定しようとして言葉がつまる。

 なんで、自分はこんなにも奏生に固執していたのだろうか。


「落ち込むのはわかるけどさー、べつに寧々にチャンスがないわけでもないじゃん。高校生のカップルなんてすぐ破局するのが当たり前。好きならさ、略奪しちゃえばいいじゃん」


 そう言って、サキサキコンビの黒いほうが寧々の肩を叩く。励ましてくれるんだってことは流石にわかる。


「ワタシ……」


 自ずと寧々は口を開いていた。

 いったい、自分はなにを言わんとしているんだろうか。


「実は、奏生と幼なじみなんだ……」


 気がつけば、ぽつりぽつり、と話し始めていた。


「奏生はなんでもワタシの言うことを聞いてくれて……」


 全てをさらけ出すつもりで喋っていた。

 奏生にどれだけお世話になっていたか。朝、学校のある日は必ず起こしてにきてくれて準備を手伝ってくれて、夕ご飯もたまに作ってもらって、他の家事もたまにやってくれる。

 けど、寧々は一度だって奏生に感謝したこともなければ、奏生は下僕なんだから当たり前だとしか思っていなかった。


「でも、奏生に彼女ができて、それから胸がずっと苦しくて。奏生はワタシだけのものだと思っていたのに、いつの間にか私の手から離れたような気がして……」

「そりゃあ、それだけお世話になっていたら、その人のこと好きになるのは当たり前じゃね?」


 そうか、と思う。

 なんで、今までこんなことに気がつかなかったんだろう。


「好き……」


 そう口にしてはっきりと自覚した。


「ワタシ、奏生のこと好き……っ」


 同時に気がついてしまう。

 こんな感情があるせいで、心がここまで乱れてしまうことに。

 気がつけば、自分は泣きそうになっていた。好きだとわかってしまったからこそ、より胸が苦しい。好きな人が別の人とつきあっていることがこんなに苦しいことだって、寧々は知らなかった。


「だったら、がんばらないとね。うちらも応援しているからさ」

「うん、うちら全力でねねっちのこと応援する!」

「……ありがとう、二人とも」


 そう言うも、今更なにをかんがればいいのか、わからなかった。





▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

【あとがき】

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