―16― 変わらない日常の一コマ
毎朝、寧々を起こすのがオレの習慣だ。
「おはよ、奏生」
朝起きた彼女はやはりというべきか、どことなくよそしかった。
寧々がこうなってしまった原因はわからないが、時間が解決してくれたらいいのだが。
学校では、オレと椎名の関係は広く知り渡っているおかげで、いつでも椎名に話しかけることができるようになった。
「忠仲さん、なんのご用ですか?」
「特に用はない」
「じゃあ、わざわざ私のもとに来ないでください」
「別に、いいだろ。オレはお前の彼氏なんだから」
体育の時間、特にやることがなかったのでオレは強引にも寧々の隣に腰をおろす。それを椎名はため息をしつつも受け入れてくれる。
なんだかんだ学校で話しかけても椎名は無視しないで受け答えをしてくれる。まぁ、学校ではオレたちはカップルということになっている以上、オレを無碍にするわけにはいかないのだろう。
「あなたの幼なじみ、随分と運動神経がいいんですね」
「あぁ、そうだな」
オレたちのクラスはバレーの授業中だった。
確かに、寧々はアタックを決めたりと活躍をしていた。
ちなみに、さっき椎名の様子を見ていたが、彼女の場合運動はからっきしのようでサーブすらまともにできていなかった。
「寧々はああみえて道場に通っているからな」
「道場……?」
「空手をやっているんだよ」
「それは意外ですね」
そう頷くと、彼女はふとオレの腕をペタペタと触り始める。
「忠仲さんも服を着ているときにはわかりませんでしたが、意外と筋肉質ですよね。もしかして、忠仲さんも道場に通っているのではありませんか?」
察しの良いやつだな。
「昔の話だよ。今は通ってない。けど、最低限のトレーニングは今でも続けているな」
「そうだったんですね」
しかし、椎名とこうして話せるようになったのはいいが、まったく関係が進展しているような気がしない。
なにか策を講じる必要がありそうだな。
◆
二ヶ月の間に風不死椎名を恋に落とさなくてはいけない。
同棲生活のおかげで彼女と話す機会は増えたが、だからといって、話しているだけで彼女がオレのことを好きになってくれるほど世の中は甘くないだろう。
なにか策を施さねば。
「なぁ、椎名。この後、二人でどこか行こうぜ」
放課後、オレは椎名にそう話しかける。二人で出かけて好感度を稼ごうって算段だ。
それに、今日は学校が早めに終わったので、遊ぶ時間もたっぷりある。
「え……、嫌です」
間髪いれず断られる。
学校ではカップルのフリをすることになっているのに、なんで平気で断るんだよ。
「えっと、用事があるのか?」
そういうことなら仕方がないが。
「いや、特に用事はないですけど」
「じゃあ、どうしてだよ?」
「だって、面倒じゃないですか。なんで放課後、好き好んであなたと一緒にいなければいけなんいですか」
椎名は平然とそう言う。おかげで会話を聞いていた生徒たちが「まさかの破局!?」やら「ついに魔の手から風不死さんを救うことができたー!」とか好き勝手口にし出す。
「それに、この前仕方なくデートしてあげたじゃないですか。あれで満足してください。だから、これ以上、私につきまとわないでください」
くそっ、どうやってこの減らず口が減らないお嬢様を説得しようか。
「ノーパンだったくせに」
ぽつり、とオレは椎名にしか聞こえない声量で呟く。
瞬間、彼女はつり目でオレのほうへと振り向いた。
「ど、どういうつもりですか……」
「べつにー、この前のこと思い出しただけで、他意はないが」
そう呟くと、椎名は悔しそうな顔つきになる。
どうやら、オレの伝えたいことが伝わったらしい。そう、もし断るならノーパンで歩いていたことを皆に暴露するつもりでいるわけだ。
「あなたってホント最低っですね」
「なんとでも言うがいい。オレはお前を落とすためならどんな手段だって使うつもりだからな」
「わ、わかりましたよ。あなたとデートすればいいんですよね」
よしっ、なんとか説得することに成功する。
だが、椎名はオレをゴミを見るような目で見つめてくる。いくらデートするためとはいえ、脅すのはやり過ぎだったかな……。
◆
椎名と奏生が揃って学校を出た直後、それを追う三つの人影があった。
「ねねっちー、やめようって、流石にさー」
「そうだよー。うちらでカラオケに行こうって。そんでテンションマックスで歌えば、嫌なこと忘れられるって」
そのうち二人はギャルでおなじみのサキサキコンビだった。
「うるさい。私一人でいくから、あんたたちはついてこないでよ」
もう一人は奏生の幼なじみの寧々だった。
寧々は激しい剣幕で椎名と奏生を追いかけていたのだ。
「ついていくなって、そういうわけにもいかないでしょ」
「ほうっておくのは、流石に心配てきな?」
そう言って、サキサキコンビの二人も寧々の後ろをついて歩く。
「ねねっちー、そもそもあいつらを追いかけてどうするつもりなのー?」
「邪魔する」
寧々ははっきりとそう告げた。
「あいつらのデートを邪魔してやるの」
「えーと、なんでそんなことをするか理由を聞きたいかもー?」
「だって、奏生が彼女とつきあうとかおこがましいから」
あー、やっぱり寧々は奏生が好きなんだー、と確信するサキサキコンピだった。
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