―15― お料理を作ってもらう

「椎名、帰るぞ」


 放課後、オレは椎名に話しかける。晴れてオレたちはクラス公認のカップルになったわけだし気負わず話しかけることができる。


「いいですよ」


 椎名も了承してくれた。


「今日の夕ご飯はどうします?」


 帰り道、歩きながら椎名が尋ねてきた。


「そうだな。朝ご飯作ってもらったし、夕ご飯はオレが作るよ」

「いえ、居候している身ですし、私が夕ご飯を作りますよ」

「そんなの気にしなくていいから、オレが作るよ」

「いえ、私が」


 むむっ、椎名のやつ中々譲らないな。


「だったら、二人で作るか」


 仕方がないので譲歩した案を出す。


「いやですよ。二人で料理できるほどキッチンのスペース広くないじゃないですか」


 ホントどこまでも強情だな、こいつは。


「だったら当番制にしよう。日にちごとに家事をそれぞれ分担するんだ」

「仕方がありませんね。わかりました」


 嫌々って感じではあるが、納得はしてもらえたようだ。


「でも、不思議ですね」

「なにが?」

「男というのは女に家事を任せるものだとお爺様にお教えられましたので、忠仲さんが積極的に家事に参加したがるのは不思議だと思いました」

「いや、そんな不思議なことでもないだろ」


 昔はそういう風潮があったかもしれないが、現代ではそうも言っていられないだろ。


「どちらか片方が働いているなら、もう片方が家事に専念してもいいかもしれないが、オレと椎名はどちらも学生だろ。それなのに、椎名に家事を全てやらせるのは流石に気が引ける」

「なるほど、そういうものですか」


 それにオレ自身は家事をやっていてあまり苦ではないしな。

 だから、手伝わない理由がないわけだ。



 結局、朝ご飯と夕飯の用意はオレと椎名で交互に分担することになった。オレが朝ご飯を用意したら、その日は椎名が夕飯を用意する。椎名が朝ご飯を用意した日はオレが夕飯を用意するって感じだ。

 他の家事に関しては気がついたほうがやるって感じにして、あえて具体的なルールは決めないようにした。


「お待たせしました」


 そう言いながら椎名が料理を運んでくる。

 今日の夕飯の担当は椎名だ。

 まず目に入るのは、天ぷら。種類は様々で、エビやかぼちゃ、なすにしいたけなどが揚げられている。

 まさか、いきなり揚げ物という面倒な料理を選ぶとは、中々に飛ばしてやがる。


「どうですか?」


 一口食べると、椎名が上目遣いで感想を求めてきた。


「う、うまいな」

「うん、おいしいね!」


 オレと妹のアキがそれぞれ口にする。すると、椎名がほっと胸をなで下ろす。

 天ぷらってサクサクに仕上げられるのが意外と難しいのだが、椎名が作ったのはちゃんとサクサクになっている。

 天ぷら以外の春雨のサラダや味噌汁もうまかった。

 これはオレも負けていられないな。


 翌日、今日の料理担当はオレだ。


「ねぇ、お兄ちゃん、なにを作っているの?」

「今日はアキの好きなオムライスだぞ」

「わーっ、すごくうれしい! 風不死さん、お兄ちゃんのオムライス、ふわとろですごくおいしいんだよ!」

「ふわとろですか……」


 アキと椎名の会話が聞こえてくる。なんだかんだ話す程度には仲良くなってくれたようだ。


「あぁ、もう少しでできるから待っていてくれ」 


 そう返事をしながら、オレはフライパンに溶いた卵を入れた。


「おぉーっ」

「これは……っ」


 二人共声をあげて驚いていた。

 チキンライスの上に乗せたオムレツに包丁で切れ目をいれて、オムレツをふわとろ状にしたところだった。


「しかも今日は特別にこんなのも用意した」


 取り出したのは鍋にはいったデミグラスソース。

 それをオムライスにかければ完成だ。

 普段はここまで料理を凝ることはないが、昨日の椎名の料理に触発されていつもより張り切ってしまった。


「これはおいしいですね」

「お兄ちゃんのオムライスやっぱ好きだなー」


 二人とも喜んでくれる。

 これはがんばったかいがあったな。


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