―12― お昼ごはんと一緒に
案の定、椎名と二人っきりで登校したら注目を浴びてしまった。
ぼっちの俺にはこの視線は心臓に悪いのだが弱音を吐いてもいられない。なんせ椎名はいつもこんな視線を浴びているんだろうしな。
「なぁ、椎名。一緒にお昼食べようぜ」
昼休み、早速彼女に話しかける。できる限り彼女と時間を共に過ごして好感度を稼がなくてはいけない。
「別にいいですよ」
淡々と彼女は了承する。
断られるだろうと思っていたが、その予想は外れてしまった。
そんなわけで風不死椎名と二人っきりのランチだ。
「ねぇ、風不死さん、俺たちも仲間に入れてくれよ」
髪を染めたいかにもヤンキーな二人組が話しかけてきた。かわいい椎名にお近づきになりたい、なんて下心が丸見えだ。
去りな。俺たちの至福にひとときをこんなやつらに邪魔されてたまるか。
「いいですよ」
え? 椎名のやつ、なんで了承するんだよ。ヤンキーたちは「サンキュー」と言いながら近くの机をくっつけて準備を始めるし。
「あ、それなら私たちもいれてよー」
「せっかくの機会だし椎名さんと仲良くなりたーい」
挙げ句の果には女子たちもやってくる。もちろん椎名は彼女たちにも許可を出す。
「なぁ、忠仲、俺を見捨てないでくれー」
あぁ、澄川お前もいたのか。もちろんいいぞ。椎名とふたりっきりで食事をしたいという俺の野望は潰えたのだ。一人増えたところで何も変わらんだろ。
結局、大所帯になってしまったな。陰キャなオレがこれだけの大人数で食べるのは初めてな気もする。
「ねぇ、椎名さんって、趣味とかってあるの?」
「そうですね……、特になにもないですね」
「え、えっと、意外だね、なんか風不死さんはイケてる女子って感じだし、オシャレなカフェやお店なんかを回ってるのかなーって勝手に想像してた」
「海外の田舎に住んでいましたからね。そういうのとはあまり縁がありませんでした」
「でも、せっかくこの国に来たわけですし、色んなところを行ってみたらどう? そうだ、せっかくだし、今度どこかへ一緒に行こうよ。案内するよ」
「まぁ、機会があれば」
「椎名さん、映画とかドラマとかは見ないの?」
「そういうのはあまり詳しくないですね」
「なぁ、音楽とは聞かねぇの? 俺、音楽なら色んな聞くから詳しいぜ」
くそっ、陽キャ共が。会話に花を咲かせやがって。
陰キャのオレは、これだけの大人数がいるなかでの立ち回り方がわからず、ただ黙っているしかないっていうのによ。
「ただなかぁー。俺女子と食事ができて幸せだ。今日死んでも満足かもしれねー」
味方のはずの澄川は意味わかんねぇこと言ってるし。
はぁ、この調子じゃ椎名の好感度を稼ぐの難しいかもな。
てか、椎名の作った弁当めちゃくちゃうまいな。同じ料理を志す者としてなんだか悔しい。
「ねぇ、さっきから気になっていたんだけど」
ふと、女子の一人がそう言って視線を下に落とす。
「風不死さんと忠仲くんのお弁当の中身、全部一緒な気がするのは気のせいかな?」
しまった、と思う。
結局お弁当箱の数が足りなかったため、椎名はタッパにつめたやつオレはお弁当箱と容器こそ違ったものの、中身の食材に関してはまるっきり同じだ。
少し観察すれば、誰だって違和感を覚えるだろう。
「えっと……」
椎名は硬直していた。
まずいな。まさか、実はオレたち借金を帳消しするために婚約(仮)してるんです、なんて言えるわけがないしな。
「私が忠仲さんの分のお弁当を用意したからです」
椎名はそう告白した。まぁ、それ以外の理由思いつかないしな。
「えっと、前から気になってたんだけど、もしかしてお二人ってつきあってるの?」
そして、また新たな質問が飛んできた。まぁ、女子が男子の弁当を作る理由なんてつきあっているぐらいしか普通はないもんな。
とはいえ、流石につきあっていると肯定するわけにはいかない。
ここはオレが代わりに否定して、弁当を作ってもらった理由はアドリブで誤魔化すとしようか。
「いやつきあっては――」
「はい、但仲さんとは交際をさせてもらっています」
おい、どういうつもりだ!? と、叫びそうになった。
瞬間、クラスは阿鼻叫喚の嵐に巻き込まれる。女子たちはまさかのカップルの誕生にキャーと興奮し、男子共は慟哭する。「殺せー」ってオレに殺害予告するやつまででてきたし。
ちなみに澄川は「神よ! なぜ、神はこの世界をお創りになったのですか!」と言っている。やっぱりオレはお前がわからんよ。
「おい、椎名。こっちに来い」
「えっ」
椎名の腕をつかんで立ち上がらせる。事態を把握するためにも二人っきりで話す必要がありそうだ。「あの二人、逢引するつもりだわ!」なんて声が聞こえてきたが無視だ、無視。
「それで、一体どうつもりなんだ?」
そして、人がめったに来ない階段裏にて他の誰にも聞かれていないことを確認しつつ、オレはそう尋ねるのだった。
◆
忠仲奏生と風不死椎名がつきあっている。そのゴシップは一瞬のうちにクラス中に広まった。
そして、別のグループとはいえ同じ教室で食べていた七皆寧々にも当然のごとくその内容は耳に伝わる。
「へー、本当につきあっているなんて世の中なにが起きるかわかんないもんだねー」
七皆寧々と一緒に食事をしていたギャル二人組サキサキコンビの片割れ、通称サキサキコンビの黒い方がそう口にする。なぜ黒い方と呼ばれているかというと、早紀は日焼けサロンで肌を焼いているため。ちなみに、もう一方の斉藤咲はサキサキコンビの白い方と呼ばれている。理由は肌が白いため。
「いやー、ホントわかんないっすねー」
サキサキコンビの白い方が、本当は触れたくないけどまったくスルーするのも不自然なような気がしたから恐る恐るといった様子で、そう口にした。
というのも、七皆寧々の様子がおかしいことをギャルたちはなんとなく察していたし、その原因が七皆寧々が忠仲奏生を好きだからというのも確信には至らないものそうなんだろうとも思っていた。
「………………」
寧々はというとさっきから思い詰めた表情で弁当の中身を咀嚼している。
「えっと……」
正直、この空気に耐えられない。
慰めようにもなんて言えばいいのか。
「味がいつもと違う……」
ポツリ、と寧々は呟いた。
いつもは奏生が寧々の弁当を作っているが、今日に限っては椎名が弁当を作ったからこそ生じた感想だが、そんな事情を知るよしもないギャルたちはただ首を傾げるしかなかった。
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